ネットバンキングが広く普及したのにもかかわらず、銀行窓口ではいまだに複雑な手続きや高額な取引が残っており、待ち時間が長い。病院では診察アプリ導入などで待ち時間短縮の努力が見られるが、銀行では受付、案内、窓口での手続きなど、各段階で時間がかかる。金融業界では高度なIT/デジタル化が進んでいるはずなのに、これはなぜなのだろうか。
ネットバンキングで多くのことができるようになったとはいえ、銀行の店舗でしかできない処理や手続きが今もある。銀行によって違うにせよ、例えばネットの限度額を超える振り込みや通帳・カードの再発行、住所など届け出内容の変更、定期預金や外貨預金の解約などである。メガバンクの窓口でこれらの処理をしようすると当たり前のように30分、1時間と待たされる。この待ち時間は昔からあまり変わっていないように感じる。
窓口で長時間待たされる時間、病院は改善へ
総合病院でも、予約診察も含めて会計や薬局で1時間待ちなどが当たり前だった。しかし多くの病院が患者の待ち時間をいかに減らすかに腐心して改善を試みている。筆者がお世話になったJ病院の実態はこうだ。予約再診での待ち時間は、医師や診療科によって大幅に変わる。ほとんど待ちがなく予約時間に診療を受けられる場合もあれば、1時間半待ちは普通なので診療予約時間に1時間遅れで行くようにしている医師もある。
そんなところに診療アプリが導入された。再診予約オーダーと連動して診察日時がスマホアプリからカレンダーで確認できる。診療日当日は受付を済ませると、アプリで待合順番とかお薬の準備状況とかがわかる。待ち時間が短縮されるわけではないが、待ち時間が読めるので近くで食事をするとか、カフェでコーヒーを飲みながら仕事もできる。これは大変ありがたい。
また、診察券に紐づけてクレジット後払いを登録できるようになり(病院のスタッフが人為的に行っている)、会計で長時間待つ必要もない。会計の際における健康保険証の確認も、病院到着時にマイナンバーカードを読み込ませるだけで済むようになった。
とはいえ、薬局の待ち時間は相変わらずである。サイネージに平気で「ただいまの待ち時間90分」などと掲示される。待ちたくなければ有料の配送サービスがあり、時間を買うことができる。配送サービスもアプリから登録できればよいのだが、そこまではまだできていない。
総じて言えば、今のところは要所ごとでのデジタル活用にとどまる。診察時間も電子カルテの導入で検査結果や画像参照が瞬時にできるようになって効率が上がっているはずだが、予約時間に多くの患者を入れるために滞留し、待ち時間は減らない。それでも患者の待ち時間を減らそうとする病院の努力はある程度は体感できる。
一方、メガバンクの店舗窓口は、「相変わらず」と言わざるをえない。近くでコーヒーを飲んだり、食事をしたりするわけにはいかない。交通渋滞による時間のロスと同じく、待ち時間は生産性ゼロであり、それを累計した膨大な待ち時間は無駄以外の何物でもない。
窓口業務の処理プロセスを観察する
最近も、メガバンクの支店窓口に行かねばならないことがあった。ATMの限度額を超える振り込みと投資信託の解約のためである。支店に行くと、まず受付で手続き内容の確認がある。この確認票を渡す役割に3人の行員がついている。かなりの人件費がかかるはずだ。その後は確認票を持たされ、案内のあるまで待つことになる(写真1)。2つの処理があったためか、案内まで1時間近く待つ羽目になった。
ようやく窓口に案内されると、キャッシュカードでもう一度、2つの処理の受付札をもらう。ここにも2、3人の行員がいる。今度はQRコードが付いており、先に振込処理が行われた。行員がタブレットで受付カードのQRコードを読み取り、振込情報を入力する。内容を確認して受付カードとタブレットを持って指定された窓口に行く(写真2)。窓口の行員がキャッシュカードのパスワードを確認して、振込票を発行して完了。このプロセスはよくできており、待たされた割に処理は早かった。
しかし、2つ目の解約手続きはそうではなかった。解約にあたってのさまざまな説明があり、行員が行ったり来たりしながら通帳、身分証明書、届け出印鑑を確認したり、押印したりした。解約書類を受け取るまで30分ほどかかった。ほとんどが紙ベースであり、デジタルで処理されていたのは、行員がPCで銀行システムにアクセスして契約内容を確認する場面くらいだった。
ちなみにその間、隣では老婦人が振込手続きをしていた。怪しい振り込みかもしれないと、その行員はかなり丁寧に対応していた。生成AIが進化しても必要なアナログな対応は残るだろう。
●Next:銀行窓口業務を観察してわかった根本的な問題
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