[市場動向]
理化学研究所、「バーチャル富岳」を提供、「富岳」用に開発したソフトウェアを他システムで動作可能に
2024年8月5日(月)日川 佳三(IT Leaders編集部)
理化学研究所計算科学研究センターは2024年8月5日、スーパーコンピュータ「富岳」用に開発したソフトウェアを、クラウドサービスや富岳以外のコンピュータ上でも利用可能にする「バーチャル富岳」を提供開始した。富岳の研究成果や計算基盤を容易に利用できるようにするのが狙い。初版はAWSのArmプロセッサ「AWS Graviton」環境で動作する。
理化学研究所計算科学研究センター(兵庫県神戸市)は、スーパーコンピュータ「富岳」(写真1)用に開発したソフトウェアを、富岳以外のコンピュータやクラウドサービスなどでも利用可能にするプロジェクトに取り組んでいる。狙いは、富岳の研究成果や計算基盤を容易に利用できるようにすることである。
富岳用に整備したソフトウェア群のうち、利用頻度の高いものを抽出し、これらのバイナリを一体化して「バーチャル富岳」の名称で配布する。クラウドサービスや新規のスーパーコンピュータ上にバーチャル富岳を導入することで、プライベートな富岳の環境を構築可能である。富岳と異なり成果を公開する義務はなく、秘匿性を担保した用途で利用できる(図1)。
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バーチャル富岳の初版として、Amazon Web Services(AWS)向けに提供を開始した。富岳のソフトウェア群を、富岳に搭載された富士通のCPU「A64FX」と互換性のあるArmプロセッサ「AWS Graviton」環境で動作させる。また、富岳の利用者がAWSサービス上でこれらソフトウェア群の試験・試行を行うための環境も用意する。
例えば、研究開発段階のアプリケーション(シミュレーション)を富岳を使って研究・開発し、これらの成果を用いた実際の製品/商品の開発を、秘匿性の高いAWS環境で行うといった使い分けが可能である。アプリケーションを大規模に改修することなく双方の環境で動作させられる。
逆に、AWS上の小規模な環境で基本となるプログラムの開発や基本的な動作検証を行い、富岳では富岳でしか行えない大規模な計算を行うような利用も容易である。
理研はバーチャル富岳の提供にあたり試験環境として、AWS Graviton3E採用の「Amazon EC2 Hpc7gインスタンス」を中核としたクラウドリソースも提供開始した。富岳の利用者であればだれでも利用可能である。
この試験環境を広く利用してもらうことで、バーチャル富岳を構成するソフトウェア群の過不足や版数の組み合わせ条件などのトレンドを把握し、バーチャル富岳の構成要素を継続的に見直していくとしている。
理研は今後の予定として、富岳が採用しているArm命令セットアーキテクチャとは異なるアーキテクチャのコンピュータシステムでも利用可能なバーチャル富岳の提供を目指している。また、富岳の後継を目指す次世代フラッグシップシステムに向けても、富岳との連続性を確保可能としている。