産業制御システム大手の米ロックウェルオートメーション(Rockwell Automation)は2024年11月18日~21日(現地時間)、米カリフォルニア州アナハイムで年次イベント「Automation Fair」を開催した。約1万人が参加した同イベントでは、同社キーパーソンによる基調講演をはじめ、450以上の技術トレーニングや400以上のセッションが開催され、展示会場では120を越える製品やサービスが披露された。本稿ではロックウェルオートメーション 会長 兼 最高経営責任者(CEO) ブレイク・モレット氏ら、同社エグゼクティブが示した次世代の製造業と同社の取り組みについてレポートする。
社会基盤を支える製造業、技術革新は人類の発展に寄与
米ロックウェルオートメーション(Rockwell Automation)は、1903年創業の長い歴史を持つ、産業制御システムおよびファクトリーオートメーションのグローバル企業である。米ウィスコンシン州ミルウォーキーに本社を置き、約2万6000名の従業員を擁して、世界100カ国以上の拠点で製品・サービスを提供している。
その同社が、米カリフォルニア州アナハイムで年次イベント「Automation Fair」を開催した(写真1)。「Make it Matter(価値を具現化する)」をテーマに掲げた今回のイベントでは、AI、ロボティクス、SDA(Software-Defined Automation:ソフトウェア定義オートメーション)の3つの技術要素を中心に、次世代の製造業のあり方が提示された。
初日の基調講演に登壇した、同社会長で最高経営責任者(CEO)を兼務するブレイク・モレット(Blake Moret)氏(写真2)は、「Making it Matter」を掲げた意味について「近年、製造業は社会にとって重要な役割を担っている」としたうえで、以下のように力説した。
「現在の世界が抱える食料供給や清潔な水の確保、医薬品の提供、エネルギーの安定供給といった課題を解決し、社会の基本的ニーズを満たすことが製造業の重要な使命だ。(中略)製造業は経済の中核(vital core)として機能している。そうした観点からも製造業の技術革新は単なる効率化ではなく、人類の発展に寄与するものだ」
近年、ロックウェルは産業用AIの実用化に向け、既存の制御システムとの統合を重視している。既存システムの連携強化や買収した技術の統合を優先し、システムの完全性確保を実現してリスクを低減し、生産性向上と効率化を図る戦略だ。同社ではAIを人間の代替ではなく、作業者の能力を拡張するツールとして位置づけている。
さらに、エッジコンピューティングとクラウドの活用も積極的に推進している。センサーレベルでの異常検知からプラットフォームレベルでの需要計画まで、ITスタック全体で自律性を高めている。
これら技術を段階的に導入し、既存ワークフローへ展開して効果を検証しつつ、システムの安定性を確保するアプローチを採る。モレット氏は「(段階的なアプローチによって)予測できない変化や課題に対して、より柔軟で効果的に対応できる製造環境を実現する」と語った。
そうした戦略で重要なのが、ITとOT(製造・制御システム・運用技術)のシームレスな融合だ。ロックウェルは過去10年間で米マイクロソフトや米NVIDIAとの協携を推進し、セキュリティ対策強化を目的に米Verve Industrial ProtectionやスペインのOyloといったサイバーセキュリティ企業を買収している。
さらに、「システムのレジリエンス(強靭性)構築も強化している」とモレット氏。従来型のインシデント防御策を超え、システム自体の適応能力向上に焦点を当てた対策の実践だ。同氏は「既存システムの連携強化と効率性の向上、設計・保守の容易性を追求すると同時に、買収した技術の統合に注力することで、システムの完全性確保を目指す」と強調した。
AIによる検査基準の自動学習と品質管理を実現
今回のイベントで注目を集めた新機能の1つが、マシンラーニング(機械学習)を活用した品質検査システム「FactoryTalk Analytics VisionAI」だ。同システムは品質検査に特化した専用システムとして開発され、ノーコードのソリューションとして設計されている点が特徴だ。これにより、品質管理担当者や工場オペレーターは、専門的なマシンビジョンの知識がなくても、AIモデルのトレーニングや生産ライン全体への展開が可能になるという。
ロックウェルのバイスプレジデントで自律化・AI担当のジョルダン・レイノルズ(Jordan Reynolds)氏(写真3)は、「従来のビジョンシステムとの違いは、検査基準の設定方法にある」と説明する。
従来システムでは良品/不良品の判定基準を明示的なルールとしてプログラミングする必要があり、その柔軟性には制限があった。FactoryTalk Analytics Vision AIでは、良品/不良品のサンプルから自動的に学習して判定基準を確立できる。これにより、複雑な判定基準の設定や基準の更新が容易になるという。
FactoryTalk Analytics Vision AIは、これまで検知できなかったエラーを検知・分類する高度な異常検知機能を備えているとレイノルズ氏はアピールした(図1)。また、すべての検査システムの遠隔集中管理と品質データの可視化機能も用意する。さらに事前構築済みのダッシュボードや自動化されたレポート、問題発生通知などの分析機能を備えているため、遠隔地からの管理も可能だ。
レイノルズ氏は「ロックウェルの制御システムともシームレスに連携することで、ビジョンシステムからの情報を基に不良品発生の予測や製造パラメータの自動調整が可能になる」と説明。これにより、品質問題の検出から原因特定、是正措置の実施までを自動化するクローズドループ制御を実現する。
「FactoryTalk Analytics Vision AIは、単なる画像認識システムではなく、制御システムと統合された包括的な品質管理ソリューションだ」と、同氏は機能の優位性を強調した。
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