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[市場動向]

プロセスマイニングは普及段階を終えて実用化が加速、グローバル市場は年40%成長

業務効率化から予測分析まで活用領域が多様化

2025年8月20日(水)日川 佳三(IT Leaders編集部)

「プロセスマイニングは普及の段階を終えた。2025年現在、多くの企業が実際に使い始めて成果を挙げている」。2025年6月24日にオンラインで開催した「プロセスマイニング コンファレンス 2025 LIVE」(主催:インプレス IT Leaders)のクロージング基調講演に登壇した一般社団法人プロセスマイニング協会の百瀬公朗代表理事(上智大学特任教授)は、プロセスマイニングの普及フェーズなど最新動向を説明した。

表に出てくる事例は氷山の一角、年平均40%成長中

写真1:一般社団法人プロセスマイニング協会 代表理事 上智大学 特任教授 百瀬公朗氏
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 プロセスマイニングとは、業務システムが蓄積したイベントログを分析し、業務プロセスを可視化する技術である。デジタルトランスフォーメーション(DX)を推進するうえで重要になるデータ分析基盤の役割を担っている。

 プロセスマイニング協会の百瀬氏(写真1)は、プロセスマイニングの適用領域が広がっていると指摘する(図1)。これまでのような、ボトルネックの解消による業務効率化・コスト削減や、自動化できる業務の特定だけでなく、コンプライアンスの強化や顧客体験の向上、医療・建築など特定領域での活用などに使うようになった。AIと融合することで、未来予測も可能になっている。

図1:プロセスマイニングの適用領域が広がっている。業務効率化・コスト削減だけでなく、コンプライアンス強化や顧客体験向上など広範な領域で使うようになった。AIと融合することで未来予測も可能になった
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 百瀬氏によると、プロセスマイニングは普及段階を終え、実用化が本格化している。国内では特に、調達・購買分野での採用が活発化している。2023年度の実績は、前年度比46.9%増の25.7億円だった。今後、2028年度まで年平均23.9%で成長する見込みである。グローバルでは2032年まで年平均40%以上で成長するという。

 「現在、表に出ている事例は、氷山の一角に過ぎない」と百瀬氏は指摘する。多くのユーザー企業は、詳細を公表したがらない。この理由として百瀬氏は、「効率が出るということは、もともと効率が悪かったことを意味する。社内の恥を晒す、という側面がある」と説明する。実際には、世間が認識している以上に事例があるという。

業務効率化とコスト削減の事例が国内外で拡大

 プロセスマイニングの典型的な目的の1つは、業務の効率化とコスト削減である。この取り組みで最も有名な事例の1つが、独シーメンスである。世界6000人のユーザーが使う全600のプロセスをチェックしている。また、スイスのABBは、グローバルで40を超えるERPシステムログを基に、全業務を分析している。

 国内事例もある。KDDIは、購買伝票処理の可視化と、通信設備の故障対応業務効率化を目的に導入した。購買業務をダッシュボードで可視化し、故障対応の受付から完了までのリードタイムを短縮している(図2)。また、NECは、業務プロセス全体のボトルネックを特定し、年間で700時間超の作業時間削減を見込んでいる。

図2:業務効率化・コスト削減にプロセスマイニングを活用した代表的な国内事例
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 このほか、イタリアの大手銀行であるクレデムは、2000パターンを超えるローン処理プロセスの全バリエーションをモデル化し、全案件の30%で発生していた「繰り返し業務」を発見して削減した。こうして、ローンの申請から完了までのリードタイムを短縮した。「可視化しただけでも効果が見える」点が特徴的な事例である。

 独ドイツテレコムサービスヨーロッパは、調達業務のデジタル化でベンダーへの2重支払いを特定し、300万ユーロの現金を節約した。百瀬氏は「ベンダーへの2重払いや支払いタイミングの問題は改善効果が大きく、日本でも最もプロセスマイニングの対象となっている領域だが、同分野の事例は日本ではまったく表に出てこない」と指摘した。

 IHIは、15年間使ったERP(統合基幹業務システム)の刷新にともない、業務プロセスの可視化を実施した。百瀬氏は、今後プロセスマイニングを検討する企業に対して、「ベンダーへの支払い問題解決と、ERP刷新にともなう現状業務プロセスの可視化の2つが、プロセスマイニングの王道」と助言した。

コンプライアンス強化でリスクを顕在化

 プロセスマイニングの新たな領域の1つが、コンプライアンスの強化である。豊田通商が、経費精算データの分析による不正抑止で成果を挙げている。また、米国州政府の事例では、標準プロセスを逸脱した調達プロセスによってリードタイムが伸びていることや、請求処理手順の誤りによって140万米ドルの費用が発生していることを発見し、これを解消した。

 「従来の監査やコンプライアンスは、人間のヒアリングやサンプルに依存するため、標準プロセスからの逸脱を見逃すリスクがある。一方、プロセスマイニングは、すべてのイベントログを分析するため、逸脱を網羅的に検出できる」(百瀬氏)。表面化する前に問題を特定できるメリットは大きく、受動的な問題解決から能動的なリスク管理へと転換可能だとしている。

システムや業務を改善して顧客体験を向上

 顧客体験向上とサービス品質改善も、プロセスマイニングの新たな領域である。NTTデータグループは、社内ヘルプデスクのユーザー動線改善と問い合わせ件数削減を目的に活用している(図3)。また、イーデザイン損保は、事故対応業務プロセスを可視化したことによって、2時間以上の連絡遅延が顧客満足度低下につながることを特定し、担当者変更やメール連絡が遅延原因であることも明らかにした。

図3:顧客体験向上とサービス品質改善にプロセスマイニングを活用した代表的な国内事例
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 りそな銀行は、アクセスログの分析によって、コンタクトセンターの問い合わせにつながりやすい改善対象のWebページを可視化した。これにより、Webサイトのアクセス数を3年で1.7倍に増加させ、改善コストに対する費用対効果を単年で2.5倍に向上させた。

 通信事業者の仏オレンジは、光ブロードバンド展開プロセスを改善した。業務プロセスの自動化によって500人分の労働時間を削減し、過去4年間で3億ユーロ以上のビジネス価値を創出した。「業務を変えるのではなく、業務を自動化できるかを調べ、自動化による効果を分析した事例」として有名だという。

 百瀬氏は「顧客体験は内部プロセスと連動している。内部プロセスの効率化や改善が直接的に顧客満足度の向上につながる」と指摘し、運用効率向上と顧客ロイヤルティ強化の密接な関係を強調した。

デジタルツインとAIを活用して未来を予測

 プロセスマイニングの新たな活用領域として、デジタルツインの構築も注目を集めている。リコーは、塗装工場のデジタルツイン化と、これを活かしたシミュレーションによって、将来のトラブル予測・防止を実現した。また、独ルフトハンザシティラインは、AI画像解析で地上業務をデジタルデータ化し、フライト遅延要因を解明して定刻フライト率100%を達成した。

 AIとの融合も加速している。大規模言語モデル(LLM)の活用により、知識集約型タスクの自動化を通じたビジネスプロセスの再構築が可能になった。「PromoAI」のようなツールを使うと、テキストの記述からプロセスモデルを自動生成でき、専門知識を持たないユーザーでもプロセスマイニングの恩恵を享受できる。AIカメラを使えば、アナログ業務もデジタルツイン化可能である。

 イベントデータをAIで分析すれば、原因と結果の因果関係を可視化し、納期の遅延やコンプライアンスの問題といった、将来起こりそうなイベントを予測できるようになる。また、AIエージェントによって業務フローの自動化が進むことで業務プロセスがブラックボックス化する中、これを可視化する手段としてプロセスマイニングが有効である。

戦略ロードマップへの組み込みと人材育成が課題

 今後、企業においてDXが進むと、デジタル化した業務データをイベントログとして活用できることから、プロセスマイニングの適用領域が増える。こうした経緯から百瀬氏は、「プロセスマイニングを戦略ロードマップに組み込むべき」と提言している。

 取り組みを進めるうえでは、データの品質がプロセスマイニングの結果に直結するため、高品質なイベントログデータを維持するガバナンス体制の確立が重要になると百瀬氏は言う。データを整備するうえでは、専門知識を持つ人材育成と、データに基づく意思決定を奨励する文化の醸成も欠かせない。

 プロセスマイニングは、普及段階を終え、実用化が本格化している。企業は戦略的な活用により、業務効率化から顧客体験向上、さらには未来予測まで、幅広い価値創出を期待できる段階に入っている。

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