今年の話題は、「金融危機」から始まった。金融危機の嵐は世界を駆け巡り、実体経済に影響を与え、日本の平均株価を40%以上も下落させた。3月期決算の会社は相次いで決算の下方修正を余儀なくされている。
少し冷静になって考えれば、日本の競争力はなんら衰えていない。対米ドル円レートは1995年の過去最高値(79円75銭)に近づいている。相対的に日本が強くなっているわけだ。しかし外需減退の影響をまともに受けた日本経済は、驚くほど急収縮している。需給調整を急ぐのは企業のリスク管理として当然だが、金融危機の不安が雇用不安につながり消費性向が下がるという、過剰な心理的委縮スパイラルに落ち込んでいるように見える。
「コスト削減」ではなく「ムダ取り」を!
企業内のムードはどうだろう?景気の底が見えない中で、明るい話題は何もない。自社の株価下落に嘆息し、社内では予算未達や経営計画の見直し、投資抑制、人件費削減、経費削減といった負の言葉だけが飛び交う。空気は重い。こんな状況のときのIT投資は、どうすればよいのか?
社会や環境の大きな変化点は、やれなかったことをやるチャンスになる。危機感がなければ改革活動は起動しない。追い詰められなければリスクにチャレンジしない。IT投資も同じで、新たなやり方にチャレンジできるはずである。
それはコスト削減だ。「何だ、やっぱり削減か」と暗くなることはない。削減の中に、ムダを取ることがある。無くなっても痛みはないが、余裕があると放置しがちなのがムダの特性だ。そこで10のムダを取って5を新規投資に向ければよい。それで5のコスト削減ができる。「10のムダをとって新規投資はするな」という無能な経営者はいないはずだ。
新規投資も、オフショア開発を積極的に活用することを考えたい。もちろんブリッジを挟まないダイレクトなオフショア開発のことだ。それを受けられるインドや中国の会社も増えている。発注側がどれだけ真剣に立ち向かえるかで成否が決まる。
ゼロベース予算の採用も有効だ
企業におけるITやそれを駆使して構築する情報システムが活動のインフラになっていることは前にも指摘した。不景気だからといってインフラを外すことは出来ない。出来ることはコスト削減だ。電気も交通費も通信費もそうである。欠かせないから、思い切ってムダを取ることだ。
予算の考え方も、見直してみるべきである。事業別予算方式で、前年度実績などを基にIT支出を予算化する企業は多い。この方式では予算化前の査定こそ厳しくても、以降はおおむね率で統制する程度なので、個々の支出管理は甘い。予算を余らせると次年度の予算枠が減らされるからと、目一杯使おうとさえする。この考え方に、既にムダがある。
これを変える一つの方法は、ゼロベース予算(Zero-base Budgeting)である。既得権を一切認めず、新規に評価する。ガイドラインとしての予算枠はあるが、優先順位を付けて必要なものに必要なだけ投資する。コントロールのためにガバナンスが必要だが、消化のために使い切るようなことは起こらない。都度、審査で評価すると、不要不急の案件は上がって来なくなるものである。
会員登録(無料)が必要です
- 1
- 2
- 次へ >
- 神頼りではデジタル敗戦国から脱却できない(2025/02/04)
- 幕末の藩教育から学ぶべき教育の本質(2025/01/07)
- 最近の選挙から民主主義とデジタル社会を考察する(2024/12/04)
- DXを推進するなら「情報システム部門」を根底から見直せ!(2024/10/30)
- 「建設DX」の実態と、厳しさを増す持続可能性(2024/10/02)