[市場動向]

電子政府・電子自治体プロジェクト、総額12兆円に対し希薄な存在感

2009年8月28日(金)佃 均(ITジャーナリスト)

ITの導入には成功したが、IT化に失敗した典型的な事例が、電子政府・電子自治体プロジェクトだ。投入された税金は、国と地方公共団体を合わせ総額12兆円と巨額。だが存在感はないに等しい。廃止となったシステムも少なくない。なぜこのようなことが、起こったのか。

奥谷義典氏 写真1 システム・コンサルタントの奥谷義典氏

「情報化、IT化について、雑誌などでしばしば、“動かないコンピュータ”が話題になる。しかしそれは技術的な問題に過ぎない。深刻なのは使われないシステムだ」。今年3月4日、高松市で開かれたJ-SaaSキャラバンセミナーに出演したシステム・コンサルタントの奥谷義典氏(ソレキアの元高松支店長、現顧問)の発言に、一瞬だが会場がざわめいた。

「システムはちゃんと動くのに、誰も使わない。つまりITの導入に成功しても、IT化に失敗するケースが見受けられる。多くは、現場のユーザーや業務の実態を無視した頭デッカチ、机上の空論に起因している」。

思い浮かぶのは、2001年1月のe-Japan重点戦略をきっかけに始まった、電子政府・電子自治体プロジェクトだ。例えば2004年の3月に鳴り物入りでスタートした「パスポート申請システム」。開発と運営に、政府は約21億円もの巨費を投入。都道府県が別途負担した実用化システム構築費を合わせると、総額は30億円を上回る。にもかかわらず、当初2年間の利用は133件に留まる。

国費による1件当りの処理コストは1580万円、都道府県の負担分を加えると2200万円を超える。それだけではない。パスポートの電子化について、諸外国の合意も得られない。財務省から「無駄ではないか」のと指摘を受け、法務省は「これ以上の利用増加が見込めない」として、同システムは2007年3月、事実上の廃止に追い込まれた。

「なぜ、誰も利用しないシステムを作ってしまうのかというと……」と、奥谷氏は次の4点をあげる。

  1. 現状分析の不十分さ。
  2. システム設計の立ち位置と、ユーザーの実情との乖離。
  3. 現状に合わせた情報システムにするのか、組織や制度を運営を含めて変えるのかが、不明確。
  4. 強いリーダーシップの欠如。

「CIOの役割は重要であり、肩書きだけではダメ。経営者に準じる立場で、予算と人事の決定権を持たなければ機能しない」と同氏は言う。

相次ぐシステムの廃止・停止

利用されない電子申請・手続きシステムは、パスポート申請システムのほかにも数多くある。J-SaaSキャラバンセミナーが全国で開かれていた同じ3月、電子政府評価委員会(座長:須藤修・東京大学大学院情報学環教授)が、「行政機関等に係るオンライン申請等手続システムの利用状況等調査」を取りまとめた。同委員会は国の電子申請・手続システム61件を対象に、1件当りの情報処理コストを算出して改善点を指摘している。

同調査で示されたデータを集計すると、過去に投入された整備費(開発費)は913億489万1000円、2006年度の運営費は209億6354万4017円、利用件数は1億7532万7089件だった。単純に割り算をすると1件当りの運営費は119円60銭になる。

銀行の振込み手数料やATM使用料と比較すると、何となく妥当な数字に思えるが、忘れてならないのは、ここには運営にかかる人件費が含まれていないことだ。並存する紙ベースの申請・手続きの事務処理コストもかかっている。国民や企業が負担する総コストで分析しなければならない。

その中で「ワーストワン」となったのは、防衛省の「申請届出等システム」だ。開発費3億8626万円、年間運営費3692万円に対し、2007年度の利用件数はわずか4件。開発費を含めると、1件当りのコストは1億円に達する。

文部科学省の「オンライン申請システム」は、開発費が11億7886万円、年間運営費1億900万円に対して年間利用件数は115件。2年間で250件の利用があったとして、開発費と運営費を合算した1件当りのコストは515万円だ。両システムとも今年3月末で運営停止になったが、遅きに失した感がある。

もう1つの視点は、申請・届出の総数だ。年間数十〜数千件しか申請が行われない行政手続きを電子化する意味があるのか。民間ならオンライン化の必要を議論するまでもないことだ。

地方公共団体でも同じことが起こっている。ある県では2001年度から133の行政手続きを相次いで電子化したが、2006年度に「当面利用が期待できない」と判断した107システムを廃止した。

立て直しに招聘されたCIO補佐官は、「これによって巨額な開発費、運営費の無駄を抑制することができた」と胸を張る。将来の無駄を省くことは大切だが、なぜそのようなシステムを作ってしまったのかを検証しなければ、多額の税金を無駄に使われた県民の怒りは治まらない。

行政機関等に係るオンライン申請手続システムの利用状況等調査
表1 行政機関等に係るオンライン申請手続システムの利用状況等調査
1件当たり処理費用のワースト8(図をクリックで拡大)
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