[市場動向]

国内クラウド最新動向─可用性と堅牢性で米国勢を追走へ

国産クラウドの実力 Part1

2009年9月10日(木)IT Leaders編集部

ITリソースの効率的な活用やTCO(総保有コスト)の削減などの観点から注目を集めるクラウドコンピューティング。ただし、「雲の上」をうたうサービスゆえに、全貌をつかみにくいという側面もある。米国勢を追うようにサービスを提供し始めた国内各社のクラウド戦略を追う。

メインフレームによる集中管理から、クライアント/サーバーによる分散処理、そしてWeb技術による連携処理といった企業システムの一連の流れの中で、また1つ大きなうねりが起きようとしている。必要な時に必要な分だけITリソースを利用できるクラウドコンピューティングだ。

クラウド市場を牽引してきた1社が米アマゾン・ドットコムである。同社は2006年8月、サーバーのプロセサやメモリーといった仮想マシンを貸し出す「Amazon EC2」を提供開始。1カ月単位で必要なリソースだけ借りられること、しかも安価であることから、中小企業を中心に利用者を増やした。2007年7月にセールフォース・ドットコムが「Force.com」と呼ぶPaaS(Platform as a Service)を、2008年5月にはグーグルがやはりPaaSである「Google App Engine」を発表。それ以降、この3社を中心にクラウド市場は盛り上がりを見せてきた。

過去3年における海外有力ベンダーのクラウドへの動き
図1-1 過去3年における海外有力ベンダーのクラウドへの動き

信頼性とセキュリティで海外勢と差異化狙う

もちろん、国内の大手ベンダーも手をこまぬいているわけではない。2009年に入り、大手コンピュータメーカーがクラウドサービスを相次ぎ発表。これにシステムインテグレータや通信事業者、ホスティング事業者が続き、先行する米国勢を追撃する構えを見せる。

ただし、後発の国内ベンダーが米国勢と横一線でしのぎを削るという構図には至っていない。とりわけ価格面に着目すると分が悪い。「国内にデータセンターを設置すると、土地代や電気代などの面で維持費が海外よりも高くなる。海外サービスの価格に近づけるのは難しい」(野村総合研究所 情報技術本部 技術調査部 上級研究員 城田真琴氏)。

EC2を例にとると、元々はアマゾンが自社のネット通販システムに使っていた大規模リソース群だ。クリスマスシーズンなどのピーク時以外はシステム基盤に余力があり、これを一般向けサービスに転用した背景がある。誤解を恐れずに言うなら、「安く提供するので使いたいユーザーはご自由にどうぞ」というスタンスなのだ。

これに対して日本のベンダーは可用性やセキュリティなど企業システムに不可欠な技術に特に力を入れている姿勢を示しつつ、かつ、初期の相談時から後々の運用まで顧客企業と「がっぷり四つ」で組むアプローチを採る。これまで顧客の懐に食い込んでシステムを開発してきたスタイルの延長線上にクラウドビジネスを位置づけているのだ。

業種ごとに異なるサービスの強み

ここで、クラウド市場におけるプレーヤーの動きを概観しておこう。

2009年の春、大手コンピュータメーカーが相次ぎクラウドサービスに乗り出した。4月、NECは「クラウド指向サービスプラットフォームソリューション」を、富士通は「Trusted-Service Platform」をそれぞれ発表した。続いて6月には、日立製作所が「Harmonious Cloud」で追随。各社ともに、自社製のハードウェアを使い、信頼性の高いサービスを提供できることを訴求する。

一方、システムインテグレーターもクラウドをビジネスチャンスととらえて動き出した。特定の製品や技術に縛られない立場を生かし、複数ベンダーのソフトやハードを組み合わせ、ユーザーに幅広い選択肢を提供していく。

なかでもいち早く動いたのは、新日鉄ソリューションズである。同社は2007年10月から「absonne」と呼ぶPaaSを提供済みだ。伊藤忠テクノソリューションズは2009年7月、「Techno CUVIC Pro」を発表した。これは、同社のIaaS(Infrastructure as a Service)である「Techno CUVIC」上でOSやミドルウェア、開発環境をネットワーク越しに提供するサービスである。他社のクラウド環境で運用も可能だ。

このほか、NTTコムウェアは2009年度中のサービス開始を目指し、「SmartCloud」を開発中だ。NTTデータも、「共通IT基盤サービス」を2010年度に開始するという。

通信事業者も、国内クラウド市場において存在感を示している。ハードやソフトだけでなく、ネットワークまで含めてサービス品質を管理できるという優位点があるからだ。

KDDIは2009年3月に「KDDI クラウドサーバサービス」を発表した。7月に提供を開始したネットワークサービス「KDDI Wide Area Virtual Switch」を利用し、データセンター向けの通信を識別して高速通信環境を実現する。NTTは、信頼性を重視した「CBoC」の開発を進めている。NGN(次世代ネットワーク)と組み合わせ、セキュアなクラウド環境の構築を目指す。

ホスティング事業者は、これまでのデータセンター運用実績とノウハウをひっさげ、クラウド市場に切り込む。IDCフロンティアは2009年6月、「NOAHプラットフォーム」と呼ぶPaaSを発表した。多重構造の空調システムや空気中の微粒子を検知して火災を予兆する検知システムといったサーバーの保全設備が“売り”である。

大手外資系ベンダーの動きもいよいよ活発になってきた。マイクロソフトは2008年10月に「Windows Azure」を発表。2009年10月のサービス開始を控え、同年7月に価格を明らかにした。

日本IBMは2009年7月に「IBM マネージド・クラウド・コンピューティング・サービス」を発表した。同社はクラウド向け製品・サービスを「Smart Business」と称して統合。ラインナップの充実を進めている。

企業システムがこれまでたどったアーキテクチャの変遷
図1-2 企業システムがこれまでたどったアーキテクチャの変遷(図をクリックで拡大)
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