[海外動向]
情報の精査と分析・予測で“泥沼”を脱せよ─先進企業が情報活用の秘訣を6000人に披露
2009年12月4日(金)IT Leaders編集部
Maddle Through(マドル・スルー)という言葉がある。泥の中で方向感覚を失いながらも、生き残りをかけて、どこかに突き進むことを意味するものだ。金融に端を発する世界的な景気後退によって文字通りMaddle Throughの状態に陥り、抜け出すきっかけをつかめない企業は少なくないだろう。
そんな中、「社内外に溢れる情報の中に浮上のきっかけを見出そう」と考えるビジネスパーソンが、米ラスベガスで2009年10月25日〜29日にかけて開かれたイベントに集まった。米IBMが主催した「IBM Information On Demand(IOD)」である。
IODはWebSphere、Tivoli、Rational、Lotus、Information Managementと5種類あるIBMの主要ソフトウェアブランドのうち、同社が最近特に力を注いでいるInformation Managementの年次総会だ。4回目となる今年は「Information-Led Transformation−情報活用に基づく変革」をメインテーマに掲げ、先進ユーザー事例や最新テクノロジーの解説など1500以上のセッションを用意。世界中から詰め掛けたIBMユーザーやパートナーなど約6000人に向け、情報の精査や予測・分析が変革を加速させるとアピールした。
情報活用が企業力を左右する
IOD2009は10月26日午前8時15分に始まったオープニングセッションで本格的に幕を開けた(写真3-1)。最初に登壇したのは、ソフトウェアグループのゼネラルマネジャーを務めるアンブッシュ・ゴヤール氏である(写真3-2)。ゴヤール氏は「必要な情報が必要なときに手に入れば、もっと良い決断ができたはずだとする声が増えている」と現状を示したうえで、「情報は人材や資金と同じように組織にとって戦略的な資産だ。しっかりガバナンスを効かせて、利益の向上に生かさなければならない」と強調した。
さらにゴヤール氏は「過去4年間で企業買収に80億ドルを投じてきた」と語り、BI(ビジネスインテリジェンス)ツールのCognosや統計解析に強いSPSSなど、情報活用分野のソフトを拡充するためにIBMが積極投資してきた姿勢に理解を求めた。
続いて講演に立ったIBMグローバル・ビジネス・サービス(GBS)のフランク・カーン シニア・バイスプレジデントは、GBSが年初に実施した調査結果の中から、ユーザー企業における情報活用基盤の整備状況を象徴する衝撃的な数値を次々と紹介した。会場が静まり返るほど観衆の注意を引き付けたのは2つの事実。1つは、「ビジネスリーダーの3分の1以上が信頼できない情報に基づいて重要な決断をしている」こと。もう1つは、「2分の1のビジネスリーダーが適切な情報にアクセスできない状態にある」ことだ。
その一方でカーン氏は、「情報の氾濫が加速する今、高いパフォーマンスを維持している企業は一様に情報活用が上手い」と話し、先進ユーザーの責任者を壇上に招いた。
中小企業に広がるBI
カーン氏に紹介されて、石油大手シェブロン、医療保険サービスのブルークロス・アンド・ブルーシールド、中堅アパレルのエリータハリの責任者がパネルディスカッションの席に着いた。
世界100カ国以上にサプライヤー網を持つシェブロンは2009年4月、「Analytics & Business Insight(解析とビジネス洞察)」と呼ぶ部署を新設。責任者に就いたデビー・オシュマン氏(写真3-3右から2人目)は、同社が進めているサプライチェーンマネジメント(SCM)改革について説明した。仕入れ実績や供給実績に基づく需給計画を一歩進化させて、サプライヤーが直面している資金面などのリスクを考慮しながら、安定供給が可能なサプライチェーンの構築を図っている。
ブルークロス・アンド・ブルーシールドは、米国ヘルスケア業界で最大規模のデータウエアハウス(DWH)を構築した。5400万件の契約者情報に加え、薬や国・地域ごとの病の情報をDWHに蓄積し、保険サービスの充実に役立てているという。
「BIは大手企業でなければ使えないようなツールではない。中小だって立派に成果を上げられる。その証拠に当社はたった1人でBIを運用している」。こう言って、成功の秘訣を披露したのはエリータハリのニハド・エイタマン ディレクタ(同左から2人目)である。同社はBIツールを導入して顧客の購買傾向を可視化すると同時に、商品の供給量や供給エリアを最適化した。そして業務コストを削減しながら効果的に新しい顧客を開拓し、売上を10パーセント以上高めることに成功した。
エイタマン氏は「ニア・リアルタイム」というキーワードを繰り返し、情報の“鮮度”がBIで成果を上げる鍵だと説いた。現に、エリータハリでは業務システムで発生したデータをDWHに取り込み、5分後にはBIツールで集計・分析できる仕組みを構築している。その結果、「情報がいつも新鮮なら使ってもらえる」というエイタマン氏の読み通り、1カ月あたり22万件を超えるレポートが作成されるほどBIツールの利用が全社に定着した。
DWHアプライアンスをお披露目
展示会場ではSAPやBMCソフトウェアなど約100社のパートナーがブースを構えた。それとは別にIBMもInformation Managementブランドの中核製品であるDB2やInformix、InfoSphere、Cognosのデモをするブースを約100カ所設け、IODの会期中に発表した「InfoSphere Content Assessment(非構造データのアーカイブポリシーを管理するソフト)」や、「InfoSphere Master Content for InfoSphere Master Data Management Server(画像や文書データをマスターデータと関連付けて登録するソフト)」などの新製品を披露した。
また、オラクルのExadata対抗機種に当たるDWHアプライアンス「Smart Analytics System V.1.0(日本では2009年9月に発表)」の実機も今回初めて一般公開し、来場者の注目を集めていた(写真3-4)。