システム開発プロジェクトを完遂する上で、工学的アプローチの意義を見直すべき時期が到来している。が、どう作るのかという工学にとらわれるのは危険である。今やらなければならないこと、ITを活用すべきこと、ITを適用しない方がいいことなどを明確にする、さらに上流の視点における工学的アプローチが欠かせない。
「要求分析を重視した設計手法と分析・設計方法論」説明会の講演録。実践的ソフトウェア教育コンソーシアムに申し込めば手に入れることができる
2010年10月末の某日、ある中央官庁のCIO補佐官から電話があった。「講演録を入手できたので、じっくり読ませていただいた。非常に興味深く読んだけれど、素朴な疑問があるんですよ」と言う。
その講演録というのは、実践的ソフトウェア教育コンソーシアム(P-sec、鶴保征城会長)が8月23日に開催した『要求分析を重視した設計手法と分析・設計方法論』説明会の講演とパネルディスカッションをまとめたものだ(当日の様子については前号の本コラム参照)、CIO補佐官は、そのパネラーに筆者の名前を見つけて電話をくれたわけだった。
ソフトウェア工学、システム工学が今こそ重要で、特に複数のシステムが複雑に連携し合う現在は、全体最適の実現が絶対の要件だと思います。ニワトリと卵の関係で、どちらが先かは分かりませんが、国内ITサービス産業の質的転換も図らなければならない。でも、それは30年来の課題ですよね。重要性、必要性が訴えられてきたのに、今に至っても実践の場に適用されていない。なぜですか。それに対する筆者の答えはこうだ。
いや、ITの現場はソフトウェア工学、システム工学の必要性、重要性を理解していると思いますよ。だからこそ、猛暑にもかかわらず、過日のセミナーにあれだけ多くの人が来てくれたんでしょう。
某CIO補佐官の質問は続く。理解しているのなら、実践すればいいじゃないですか。なぜ実践しないのでしょう。
実践しないのではなく、できないんじゃないですかね。1つには、技術者は学校でそのような教育を受けていないし、社会に出てから学習する機会も与えられていない。2つめとして、「これまで通り」に重きを置く前例主義の予算編成と組織運営の問題がある。3つめは経営トップの無知と無関心です。
ボタンを掛け違えている、ということですか。
そうとも言えますね。経済産業省がIT経営を提唱して、中小企業はどんどん取り組んでいるのに、“国のIT経営”ができていない。経営トップの無知と前例主義の弊害。それに尽きるでしょう。
それを首相に求めるのは無理じゃないですか。
だからこそIT戦略本部があるんでしょう? ところがIT戦略本部はインターネットだ、携帯電話だと目先ばかり追いかけて、役にも立たない指針ばかり作っているように見受けられる。政府機関の情報システムをどうするかがIT戦略本部の仕事じゃない。この国の産業や国民の生活にITをどう活かすか、国家戦略がないんじゃありませんか。
こう文字に書き起こすと、筆者のコメントは、我ながらいささか辛辣ではある。
●Next:「ITの導入には成功したが、ITの利活用に失敗した典型的な例」
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