2013年11月13日、レッドハットは都内で「Red Hat Partner Executive Summit 2013」を開催した。国内主要パートナーの幹部が集い、来日している米国本社のCEO、ジム・ホワイトハースト氏と意見を交換。11月15日の大型イベント「RED HAT FORUM Tokyo 2013」を前に、ホワイトハーストCEOが語った同社の基本戦略を中心にレポートする。
会場は都心のホテルの上層階にある瀟洒なレストラン。レッドハットの国内主要パートナー20社の幹部31人が集う中で、スピーチの口火を切ったのは日本法人の廣川裕司 代表取締役社長だ。「1993年に設立した米レッドハットは20周年を迎え、“成人”の域に達した。その責任に見合うだけの業績を上げていることは、本イベントの会場が年々、グレードアップしていることからも分かるはず」とのコメントに会場が沸いた。
写真1:レッドハット日本法人の廣川裕司 代表取締役社長
「レッドハットといえばLinuxを想起する人がまだ多数派だが、OSにとどまらずにアプリケーションサーバーや仮想化などの領域に幅を広げ、今ではデータセンターに必要となるソフトウェア製品群のほとんどをカバーできるようになった」と言及。注力分野として「プラットフォーム」「ミドルウェア」「クラウド管理」「仮想化」「ストレージ」の5分野を挙げ、それぞれの具体的な取り組みを解説。企業ITの世界に、OSSをベースとする新風が大きなインパクトを与えていることを強調した。
その上で同社のミッションは「オープンソースによる技術革新を図るユーザー、開発者、パートナーとの橋渡しになること」とし、それぞれの互恵関係を築きながら、時代変化に合わせたポートフォリオを充実させていく意気込みを語った。
続いて、廣川社長からマイクを受け取ったのが米国本社のジム・ホワイトハーストCEO。「技術的に詳しいパートナーの皆さんの前で、くどくど製品の機能を話すのはこの場に相応しくない」とし、事業の基本戦略として今何を考えているかを話すことに照準を当てた。以下では、ホワイトハーストCEOのスピーチの骨子をまとめる。
「ITベンダーのコアは独自の製品開発ではない」
私なりに、まずはOSSを取り巻く状況を整理してみたいと思う。既に20年以上の歴史を持つOSSだが、最初の10年ほどになされたのは、既にあるソフトウェア製品のオープンソースバージョンを世に出そうということだった。
ところが過去数年の間に大きな転換点を迎えることになった。それは、かつてない斬新なものが、まずはOSSとして開発されるという動きが顕著になってきたことだ。ビッグデータ、クラウドコンピューティング関連の取り組みを例に挙げるまでもなく、イノベーションの起点はOSSにあるといってよいだろう。
写真2:レッドハット米国本社のジム・ホワイトハーストCEO
この動きを俯瞰してみると、ITベンダーとユーザー企業の関係や役割の変化というものも見えてくる。OSS台頭のムーブメントを引き起こしているのは実力あるユーザー企業だ。Google、Amazon、Facebook、Twitter、LinkedIn、Alibaba…。挙げればきりがないのだが、こうした企業はITの課題を自ら解決しようと懸命だ。それだけITがビジネスに直結するようになったとの証左でもある。
現実に照らして見た時に、ITベンダーはこれまでのように研究開発を通して何らかの製品を市場投入して販売するというモデルに固執していていいものか。私はそうは思わない。産業革命において真の勝者は誰だったかを考えると、モノ作りの機械を開発した企業ではなく、それを使って量産体制を整えた企業だったのではないか。我々も機械を作ることではなく、最終顧客にとっての価値を考え、それを具現化するための提案や地歩固めに力を注ぐべきだ。
OSSのコミュニティには世界中の膨大なエンジニアがかかわり、洗練されたアイデアやコーディングで機能実装については申し分のない速さで突き進む。ただし、生き物のように常に変化するそれを企業が本番環境に持ち込むのは簡単ではない。エンタープライズ分野に適用するには、スペックを一旦フリーズさせ、一定のサイクルに則ってブラッシュアップさせていく取り組みが実は非常に重要となる。当社はかつてLinuxにそうしたスキームを持ち込んで評価を得、さらに他のOSSプロジェクトにも水平展開を図ってきたことは多くの方々がご存じだろう。
Web事業を手がける一部の企業に限ることなく、多くの企業が、OSSプロジェクトが世に送るツールセット/プロダクトを巧く組み合わせることで、イノベーションを支えるIT基盤を整えることができるようになってきた。この環境をさらに充実させるためには、我々としてもフォーカスポイントをじっくり錬って活動していかなければならない。
世の中には何千ものOSSプロジェクトがあり、健全なコミュニティを抱えているものも相当な数に達する。その中で特に力を注ぐべき領域を絞るのは簡単なことではない。そんな時こそ、顧客の声に耳を傾けるべきだ。例えばLinkedInはRed Hatの大きな顧客の1社。1時間の面会時間をもらったとして、当社の戦略や製品の話をするのはいつも5分に満たない。残り55分は、どのOSSプロジェクトにコミットしてコマーシャルなものにしていくべきかといった議論に集中している。
ビッグデータ分野も大事だ。モバイルも絶対に無視できない。もちろん、それぞれ視野に入れて取り組んでいるが、目下、当社が最も力を注ごうとしているのがハイブリッドクラウドの領域だ。
企業が経営の俊敏性や弾力性を究める上で、クラウドの活用は外せない。中でも、プライベートクラウドとハイブリッドクラウドを最適に連携させてビジネス/IT基盤を構築しマネージしたいというニーズが確実に高まる。もちろん、特定の1社のソリューションに依存せずに具現化したいという思いも根強い。そうした流れを先読みして、当社は着々と準備を進めている。IaaS領域のOSSプロジェクト、OpenStackにおいて、最大のコントリビュータになっていることもその象徴だ。
クラウド管理ソフトウェアの新版「Red Hat CloudForms 3.0」を日本でも11月13日に提供したばかりだが、これは従来対応していたVMware vSphere、Red Hat Enterprise Virtualization、Amazon Web Services(AWS)などに加え、当社のOpenStackパッケージであるOpenStack Platformの管理にも対応した。時代に合わせた価値を選択の自由を失わない形で提供できたと自負している。
ITは今後も様々な形で進展する。それによって企業がイノベーションを興せる可能性もますます高まる。世の中全体がどこに向かっているかという大局観を見失わず、もちろん自社都合の押しつけをすることもなく、真に顧客のためになるITベンダーのあり方を追求していきたい。そのためにはパートナーとタッグを組むことも不可欠であり、一丸となって顧客価値を創っていきたいと考えている。