SAPジャパンは2014年2月6日、2014年のビジネス戦略の記者説明会を開催した。その中で、クラウド事業が2013年度(12月期)に前年度比で5倍に伸びたと説明した。2014年度も、この流れを加速するためにクラウド事業を強化する方針だ。その一環として、4月にも東京と大阪にSAPジャパン自身のクラウド用データセンター(DC)を開設する計画である。
SAPジャパンの3013年度の総売上高は7億8800万ユーロで、うちソフトウェア関連売り上げは7億300万ユーロだった。総売上高は前年度から横ばい、ソフトウェア関連売り上げは同1%増である。ただし、同社は期中に会計の処理基準を変更しており、従来の基準で比較すれば、それぞれ6%増、8%増になるとする。安斎 富太郎SAPジャパン代表取締役社長は、「SAPの成長が止まっていると指摘する声もあるが、順調な成長が続いている」と胸を張る(写真1)。
安斎社長の自信の裏側には、同氏が就任以来取り組んできた、SAPジャパンの事業構造改革が「確実に進展している」(安斎社長)ことがある。その最大の改革が、クラウド事業の急進だ。売上高は前年度比で400%増(5倍)だった。
増加率だけをみれば、前年度実績が小さかったからといえる。だが、導入ユーザー数では目標の100社を超えたとする。そこには、SAP製ERPソフトのライセンスを購入し、例えばAWS(Amazon Web Services)などのクラウド上で動作させるBYOL(Bring Your Own License)は含まれていないという。
この勢いを加速するために、2014年4月には、SAPジャパン自身のクラウド用データセンター(DC)を東京と大阪の2カ所に開設する計画だ。これまでのクラウド事業は、NECへのOEM(相手先ブランドによる生産)供給や、IIJによる中堅・中小企業向けサービスの提供など、パートナー企業による展開が中心だった。
クラウド導入を後押ししているのが、同社のインメモリー・データ処理基盤の「HANA」だ。HANAのビジネスも2013年度は前年度比130%増だった。同社ERPの新規案件のうち、半数以上がデータベースにHANAを採用しているという。製品以外でも、短期導入に向けた支援サービスの受注が伸びたこと、パートナー経由の売り上げも前年度比で23%伸びた。
これらの2013年度の動きを受けて、2014年度はクラウドやHANAによるプラットフォーム事業の拡大を図る。そのために、4月の自社DC開設に加え、組織体制を見直す。具体策の1つが営業体制の変更。この1月から、従来の顧客の事業規模別から業種別に変更している。
サービス体制も、コンサルティングから運用までを一貫して提供するための新組織を4月に立ち上げる。既存のコンサルティング部隊とサポート部隊から人員を集め、400人体制でスタートする計画である。稼働までだけでなく、稼働後の顧客支援体制を強化する。
一方で、パートナービジネスを拡大するために、年商が500億円以下の顧客企業はパートナー経由の販売に切り替える。年商で直販とパートナー販売を棲み分ける施策は、これまでも大手ITベンダーなどが取り組み、一部で顧客の満足度を下げたり、将来の成長企業を取り込めないといったケースが少なくない。中堅・中小企業向けサービスが今後、欧米のようにSaaS(Software as a Service)に切り替わるなどすれば、従来と同じ反応は起こらないのかもしれない。SAPジャパンの決定は、クラウド時代のパートナービジネスを占う上では要注目だろう。
SPAジャパンは、これらの施策により、ERP以外の事業拡大を図る。「2017年にはクラウド事業が全売り上げに占める割合を15%にまで高める」(安斎社長)のが目標である。