科学技術振興機構(JST)と、理化学研究所、東京工業大学、アイルランドのユニバーシティ・カレッジ・ダブリン、九州大学、富士通の各組織からなる国際共同研究グループは2015年7月14日、ビッグデータ処理(大規模グラフ解析)に関するスーパーコンピュータの国際的な性能ランキング「Graph500」において、理研の計算科学研究機構と富士通が共同開発したスパコン「京(けい、英語名:K computer)」が1位を獲得したと発表した。Graph500での首位は2014年6月以来となる。
今回のGraph500ランキングは、ドイツ・フランクフルトで開催中のHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)に関する国際会議「ISC2015」で2015年7月13日(ドイツ現地時間)に発表されたもの。前回のGraph500(2014年11月発表)で京は2位。富士通によると、東京工業大学博士課程(理研研修生)上野晃司氏らによる成果であり、上述のJSTや共同研究グループが取り組む複数の研究の一環でチューニングが図られた結果、2014年6月以来、約1年ぶりの首位返り咲きとなった。
脳神経科学における神経機能解析やタンパク質相互作用分析、あるいはサイバーセキュリティや金融取引の安全性分析といった、大規模かつ複雑なデータ処理=ビッグデータ解析が社会・企業の課題解決に活用されるようになって久しい。コンピュータがビッグデータ解析をいかに高速に行えるかを測るうえで、重要な指標となるのが「大規模グラフ解析性能」だ。グラフとは節と枝によるデータ間の関連性を示したもので、グラフ解析性能で世界のスパコンをランキングしているのが、2010年から始まったGraph500である。
今回、Graph500の測定に使われたのは、京が持つ88128台のノードのうちの82944台。約1兆個の頂点を持ち16兆個の枝からなるプログラムスケールの大規模グラフに対する幅優先探索問題を0.45秒で解くことに成功した。ベンチマークのスコアは38621GTEPS(ギガテップス、TEPSは1秒間で探索可能なグラフの枝数、1GTEPSで毎秒10億回のグラフ探索を実行可能)に達した。
Graph500の今回の結果について富士通は、京が科学技術計算でよく使われる規則的な行列演算だけでなく、不規則な計算が大半を占めるグラフ解析においても高い能力を有していることを実証したものであり、幅広い分野のアプリケーションに対応できる京の汎用性の高さを示すものであるとしている。
公開されたGraph500最新ランキングのトップ10は以下のとおりだ(表1)。
順位 | システム名称 | 設置場所 | ベンダー | 国名 | ノード数 | プログラムスケール | GTEPS |
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1 | K computer | 理研 計算科学研究機構 | 富士通 | 日 | 82,944 | 40 | 38,621 |
2 | Sequoia | ローレンス・リバモア研 | IBM | 米 | 98,304 | 41 | 23,751 |
3 | Mira | アルゴンヌ研 | IBM | 米 | 49,152 | 40 | 14,982 |
4 | JUQUEEN | ユーリッヒ研 | IBM | 独 | 16,384 | 38 | 5,848 |
5 | Fermi | CINECA | IBM | 伊 | 8,192 | 37 | 2,567 |
6 | 天河2A | 国防科学技術大学 | NUDT | 中 | 8,192 | 36 | 2,061 |
7 | Turing | GENCI | IBM | 仏 | 4,096 | 36 | 1,427 |
7 | Blue Joule | ダーズベリー研 | IBM | 英 | 4,096 | 36 | 1,427 |
7 | DIRAC | エジンバラ大学 | IBM | 英 | 4,096 | 36 | 1,427 |
7 | Zumbrota | EDF社 | IBM | 仏 | 4,096 | 36 | 1,427 |
7 | Avoca | ビクトリア州生命科学計算イニシアティブ | IBM | 豪 | 4,096 | 36 | 1,427 |
表1:Graph500 2015年7月13日付けランキング・トップ10(出典:富士通)