世界各国のCEO(最高経営責任者)が自社の経営・IT戦略をどう描いているかを調査・分析したIBM CEOスタディレポートの最新版「IBMグローバル経営層スタディ CEOの視点:破壊者との競争と共創」が発行されています。このレポートから浮かび上がるのは、デジタライゼーションや破壊的イノベーションに果敢に挑む先進企業CEOたちのリアルな姿です。
破壊的イノベーションも参考にしながらエコシステムの再定義に取り組むCEO
では、冒頭で述べた破壊的イノベーションやエコシステムの形成に対するCEOの意識はどうでしょう。ズバリ、破壊的イノベーションの実現を目指していると答えたCEOは、全体の32%超、さきがけ企業の58%、マーケットフォロワーの44%でした(図5)。やや少ないようにも思えますが、調査対象の多くが大企業であり、デジタルビジネスのDNAを持った新興企業からの“侵略”に備えるというのがこれまでの基本スタンスでした。さきがけ企業ではすでに6割弱ということで、今後、さきがけ企業のCEOが主導するかたちで、攻めのスタンスへのシフトが進んでいく可能性があります。

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もう1つのエコシステムについて、調査では、CEOが考えるエコシステムにおける自社の位置づけを尋ねています。図6にあるように、エコシステムの中で従来と異なる新しい役割を果たす」と答えたCEOが69%、「バリューチェーンで従来と同じ役割を果たす」が18%と、エコシステムの再定義を指向するCEOが多数に上ることがわかります。
特に伝統的な大企業にとって、長年で確立されたバリューチェーンを軸とするエコシステムの再定義は相当に大がかりな作業となるかもしれません。以前より、グローバルSCMや、その次のレベルとして3大経営資源のカネを軸に生販在計画を最適化するS&OP(Sales & Operations Planning:販売・業務遂行計画)などが取り組まれてきました。

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IBMによると、エコシステムの再定義にあたってさきがけ企業のCEOは、そうした取り組みに加えて、新興企業による破壊的イノベーションの実践も参考にしようとしているようです。レポートでは、タクシー配車のウーバー(Uber)やホテル予約のエアビーエンビー(Airbnb)、ハンドメイド作品マーケットプレイスのエッツィ(Etsy)といった破壊的イノベーションの代表的企業が、中間業者を介在せずに消費者が欲しいものを欲しいときに手に入れられるバリューチェーンの構築に成功したことを挙げ、これらを可能にしたのは、高度なアナリティクスやモバイルといったデジタルテクノロジーであると分析しています。

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デジタルビジネスに即してエコシステムを再定義した後はその拡大です。調査では、さきがけ企業のCEOがターゲット顧客の見直しや、新しい地域市場や流通チャネルの開拓にきわめて積極的であることが判明しています。図7が示すように、「野心的に構築している」と答えたCEOの数で、3つの取り組みのいずれも、さきがけ企業がマーケットフォロワーに18~21%の差をつけています。
以上、IBMのCEOスタディの最新版から興味深い調査結果をかいつまんで紹介しました。グローバルのCEOと日本企業の「代表取締役社長」の差は、CIOと「情報システム担当役員」の間にある隔たりほど大きくはないでしょう。しかしながら、今回のレポートを読むに、デジタライゼーションに対する理解度や実践(への意識)においては、かなりの差をつけられているようにも思います。CIOのケースと同様、日本企業における経営トップみずからのテクノロジーリーダーシップについてはもっと議論される必要がありそうです。
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