2016年8月9日、運輸や物流、配送など「車両」を使ったビジネスを行っている企業の変革をデジタルテクノロジーを活用して実践する団体「運輸デジタルビジネス協議会」が発足した。協議会は、運輸・物流・配送事業者などの事業会社と、ICT企業などのサポート会社で構成されている。
過酷な勤務体制が引き金となって交通事故を起こすトラックやバスの運転手、Uberなど新たな脅威にさらされるタクシー業界など、運輸業界には解決すべき問題が山積している。
運輸デジタルビジネス協議会は、タクシー、トラック、ダンプなど車両を使ったビジネスを行っている企業の課題を、尖ったデジタル技術を持つICT企業などのノウハウ、アーキテクチャーで解決するための組織となっている。
まずは、各事業会社の抱える課題を解決するために、関連技術を持つ複数のサポート会社が参加して、実証実験を行っていく。実証実験の数をこなすことでノウハウを蓄積し、標準化の道を探る。将来的には、業界を跨いだ共通業務のソリューションの提供など、運輸業界全般のためのプラットフォームにしていきたい考えだ。
事業会社としては、タクシー会社や物流事業者、配送事業者、バス会社、ダンプ事業者、引越会社などを想定している。今のところ名古屋のタクシー会社であるフジタクシー、佐川急便のSGホールディングス、ダンプや重機のレンタルを行っているP&Jが参加を表明している。
サポート会社は、ビッグデータ、AIなどデジタルビジネス関連の技術を持つICT企業やセンサー技術を持つ企業などに加え、ヘルスケア系の企業も参加している。具体的に名が挙がっているのは、事務局を務めるウイングアーク1stのほか、ACCESSやテレマティクス企業のエムログ、データサイエンス企業のデータビークル、SGシステム、オムロンなど。ヘルスケア関連では大塚製薬や人工知能を使ったウェルネス企業のFiNCなども参加を表明している。
成果物として期待されているのが、各業界で共通利用できるソリューションの開発だ。例えばAIなど最新のデジタル技術を駆使した配車システムや乗務員管理システムなどが考えられる。大手企業では、それぞれスクラッチで開発しているようなシステムだが、中小の運送会社やタクシー会社ではIT投資ができないため、導入は難しい。
そこで、個社向けの実証実験で、各サポート会社の技術を結集して開発したシステムを協議会でシェアし標準化することで、中小企業でも低コストで導入できるソリューションを整備、提供していきたい考えだ。
解決するべき課題としては、運転手・乗務員の健康および安全・安心な職場環境の構築も上げられる。配車システムや乗務員管理システムによる勤務環境の改善だけでなく、健康補助食品などが運転手・乗務員の勤務に与える影響を計測するなど、ICTに限らない実証実験も行っていく。
実証実験は、1案件について、関連技術を持つ複数の企業が、必要に応じてサポート会社として参加することになる。これには、各社手弁当で参加するため、原則収益は発生しない。事務局によると、大手、ベンチャー問わず多くの企業から、新たに実証実験に参加したい旨の連絡が届いているという。
今のところ協議会から収益モデルに関する言及はないようだが、実証実験を終え、正式なサービスとして提供していく段になると、サポート企業が正当な収益を上げるための仕組みが必要となる。
また、複数の企業が参加すると、契約形態や管理体制などが複雑になり、問題が起こりやすくなる。この先協議会活動を継続していくためにも、参加各社が納得のできるビジネスモデルを構築しておく必要がある。