デジタルトランスフォーメーション(DX)など新たな仕組み作りが求められる一方でIT 予算は“青天井”ではない。それだけに、既存システムの運用負荷やコストの削減が課題になっている。その解決策の1つに第3者保守によるソフトウェアの保守費用の見直しがある。独SAPや米OracleのERPパッケージなどの第三者保守サービスを提供する米Rimini Street(リミニストリート)が「保守費用半減」を掲げ日本市場に参入して約3年。日本企業は第3者保守を受け入れているのだろうか。実状を同社日本法人の支社長である脇阪順雄氏に聞いた。
──2014年3月の日本進出から間もなく3年になる。受注状況はどうか。
2016年9月末時点で日本での顧客数は85社を超えた。対前年同期比では1.5倍以上の伸びであり、売上高は63%増である。この3年を振り返れば、1年目は数社程度だったが、2年目に倍近くにまで増えた。そして3年目は、グローバルの伸び率である40%を上回ってきた。
この背景には、参入当初に企業が抱いていた第三者保守に対する心理的な不安感が、先行事例などによって解消されてきたことがある。日本のERPユーザー企業数は、独SAPが2000社、米Oracleは600社に上るだけに、当社の見込み客はまだまだある。2017年に顧客数が100社を超えるのは間違いがない。
そのため当社としては、顧客に安心してもらえるサービスを提供し続けられるように、サービスデリバリーの体制の充実を図っている。当社のデリバリー体制はグローバルで一体運営されており、法令対応やパッチ対応などの情報も一元管理している。そのうえで日本支社には現在、20人強のエンジニアが在席している。これは決して少ない人数だとは考えていない。例えばSAPは日本に2000の顧客を持っているが社員数は営業担当者などを含めても1500人以下ではないだろうか。1社当たりのエンジニア数は推して知るべしだ。
──顧客はいずれもSAPやOracleなどのERPパッケージのユーザー企業なのか。
ERPパッケージで言えば、SAP製品のほか、Oracleの「E-Business Suite(EBS)」や同社が買収した「JD Edwards」や「PeopleSoft」などのユーザー企業になる。業種特化のパッケージや、ERPと併せて利用している「Business Object」や「Hyperion」といったBI(Business Intelligence)関連ツールについては正規保守のまま使い続けるという企業が多い。
ただ、この3年間で顧客企業が当社の第3者保守に期待するところが変わってきている。1年目に第三者保守を選択したのは、SAPやOracleと何らかのトラブルを抱えており「リプレースしたいけれどできない」といった企業だった。2年目に当社を選択したのは「ERPパッケージに対しては、もう何も手を加えない」という、いわゆる“塩漬け”にしたシステムの保守費用を削減したい企業が中心だ。それが3年目は、今後のシステム展開に打って出るために、既存システムの保守費用を下げるために第三者保守を選択する企業が目につくようになってきた。
経営層の興味は今、明らかにデジタルビジネスにある。デジタルトランスフォーメーション(DX)などへの理解が進んだからだ。IT部門にしても、経営ニーズに応えるためのシステム構築・運用を求められており、そのための手段として第3者保守を利用しようという機運が高まってきている。そうしたニーズに呼応して、DBMS(データベース管理システム)だけを対象にした第3者保守へのニーズが高まっている。Oracle DatabaseやSAPの「HANA database」などが対象になる(関連記事)。
そうした企業の代表例が、エレベーターやエスカレーターを製造するフジテックだ。同社は今、モバイルやクラウドを主体にした“攻めのIT”へのシフトに取り組んでいる。基幹系システムなど“守りのIT”においては順次、AWS(Amazon Web Services)環境に再構築していくことを計画されている。同社の基幹系システムはOracle Database上に独自開発したものだが、Oracle Databaseの保守費用が負担なっていた。そこで、AWSに移行するまでの間、Oracle Databaseは当社の第3者保守サービスに委ね、保守費用を削減。AWSへの移行時にはDBMSそのものも見直すと聞いている。
──クラウド化の進展で、ERPパッケージなども機能の提供と運用が一体化したサービスとして提供されるなど、保守業務は顧客の手から離れ始めている。
クラウドサービスは大きく、IaaS(Infrastructure as a Service)、PaaS(Platform as a Service)、SaaS(Software as a Service)に分けられている。このうちIaaSの場合は、自社が保有するERPのソフトウェアラインセンスをクラウド上で動作させる、いわゆる「BYOL(Bring Your Own License)」では、ベンダーに支払う保守料は変わらない。