デジタルテクノロジーの進化と普及が企業経営に大きな影響を与えるようになったのに伴って、成長戦略をデザインし、それを推進・具現化する「リーダーシップ」がますます重要性を帯びている。日本においては、CIOが活躍しうる領域であるものの、そこにはいくつもの問題が潜在している。
第一次、第二次と期待外れに終わったAI(人工知能)ブームも、2000年代半ばから第三次に至って実用化の期待が高まっている。コンピュータ能力の指数関数的発展、ビックデータの蓄積、機械学習のアルゴリズムの進化とともにディープラーニング(深層学習)と呼ばれるニューラルネットワーク(脳神経回路を模したモデル)の技術によって、大量データの分析や画像認識、音声認識、自然言語処理などへの応用が進む。
コンピュータソフトウェアがチェスや将棋や囲碁で名人を打ち負かし、医療診断で医師が発見できなかった原因を究明し、身近な事例ではスマートフォンでの音声コントロールやフェイスブックでの人物画像認識に技術進化を見ることができる。この流れはもやは止まらないだろう。
一方ではセンサーデータを活用する技術も進み、様々なタイプのロボットが開発されている。産業ロボットも進化は著しく、自動化の範囲が広がって生産工場で働く労働者が少なくなっていることに驚かされる。概念が先行しているIoT(Internet of Things)も、いずれその意味が実感できる活用事例が出てくるに違いない。
AIやロボットの発達は単純労働やルーティン業務だけでなく、知識労働の置き換えを可能にする。株の取引ははすでにコンピュータに移行し、優れたトレーダーも、トレード系証券会社も姿を消す事例が出ている。認知業務の機械化はあちこちで見られるようになり、コンピュータ化が難しいクリエイティブな領域以外は機械化が進んで、「消える職業」に注目が集まるようになった。クリエイティブな仕事をしていないCIOは消える職業の1つになりかねないが、それはAIやロボットの発達だけが原因ではない。
CIOの存在を脅かすCMOやCDO
Webマーケティングの重要性が認められるようになった2005年ごろから、米国企業はCMO(Chief Marketing Officer)というポジションを用意するようになった。今ではデジタルマーケティングやエンゲージメントビジネス、ブランディングといった手法やプロセスの変化の激しいマーケティング業務を、CMOが統括するのは当たり前である。CMOはデータを集積し、分析して戦略を立て、顧客との関係作りを濃密にしていくことに知恵を働かせる。データ分析やシステム化が必要になり、IT投資の多くがIT部門からマーケティング部門に割り当てられるようになるという記事も目立つようになった。
2014年頃には2つのCDOが注目を集めるようになってきた。Chief Data OfficerとChief Digital Officerである。データ担当かデジタル担当かでミッションに違いがあるものの、ITとの関係は密接である。データ担当のCDOは情報資産への投資、管理、統制、活用からデータの価値を高めて、成長機会の拡大と収益の拡大に貢献することを担う。デジタル担当のCDOは企業のデジタル戦略全般を担うことから最新のテクノロジーにも精通し、経営革新に繋がる情報資産の活用にもデジタルマーケティングにも関与する。
このような新しい役職がCIOの地位や存在価値を脅かす。これらの役職の課題として、すでにCIOとのコミュニケーションに焦点が当てられている。CIOの権限も予算も制限され、システム部門はバックヤードの守りとITやセキュリティのインフラ担当に追いやられていくかもしれない。
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