[インタビュー]

「SAP自身のトランスフォーメーション」あっての顧客DX支援─クリスチャン・クラインCOO

顧客と従業員の“体験”にフォーカス──SAPの経営変革を主導する38歳の若きリーダー

2019年9月13日(金)末岡 洋子(ITジャーナリスト)

創業47年のSAPが自社事業のトランスフォーメーションを推し進めている。メインはオンプレミスからクラウドへの事業で、2019年第2四半期の業績ではクラウド製品・サービスの売り上げが40%増加し全事業の2割を超えるなどの成果を見せ始めている。取り組みを統括するのは、1980年生まれのCOO(最高執行責任者)、クリスチャン・クライン(Christian Klein)氏だ。同氏にビジョンや取り組みを聞いた。

SAP全社のトランスフォーメーションを主導

──オンプレミスソフトウェアの世界で成功したSAPが、クラウドファーストの時代でも業務アプリケーション市場をリードする。クラインさんはそんなメッセージを発しています。取り組みはいつから始まったのですか。

 「デジタルであること」が重要になり、ソフトウェアをクラウドで動かしたいというニーズを感じるようになったのは10年ぐらい前です。当然クラウドでは、開発、実装、サポート、販売などがオンプレミスとは異なります。SAP自身のトランスフォーメーションが必要でした。顧客がもっとSAPとのやり取りや付き合いをシンプルにできないか──。そうした流れで2016年4月に私がCOOに起用され、全社のトランスフォーメーションを主導することになりました。

写真1:クリスチャン・クライン氏は2018年、SAPの取締役会メンバーに当時最年少の37歳で就任した。その記録は2019年に36歳でエグゼクティブボード入りしたユルゲン・ミュラー(Juergen Mueller)氏に更新されている

 トランスフォーメーションとは、もちろん単に新しいソフトウェアを実装することではありません。エンドユーザー、つまり人からスタートします。理由は、システムの変更はエンドユーザーの業務に影響するからです。ですので、トランスフォーメーションの推進では、顧客と従業員のニーズを正しくとらえて、エンドユーザーの近くに視点を持つ必要があります。

 例えば、セールス。競争力の高い製品・サービスをクラウドで提供し、新しい価格モデルも準備しなければならない。我々は、セールス担当者に何が必要なのかを尋ね、議論しました。

 今日の顧客はシームレスなエクスペリエンス(Experience:体験)を求めています。セールス担当は顧客宛ての見積書を作成し承認をもらい、注文を受け、請求書を作成してといった一連の業務をこなしますが、1つの部署で完結することはないですよね。トランスフォーメーションを考える時は、営業、財務、調達とバラバラに考えるのではなく、エンドツーエンドで考えなければうまくいきません。各部門の従業員がどのように働いているのか、バラバラの部品をどう結びつけるのか。これらを考えると、自ずとエンドツーエンドになります。

──顧客にも、従業員にとってもエクスペリエンスが重要ということですね。

 はい。最終的にはビジネスプロセスを標準化し、シンプルにし、自動化することを目指しています。ここにはAIを使って繰り返しの多い作業を自動化することも含まれます。加えて、重要なのは、SAP HANAプラットフォームを使うことで、全社に関するリアルタイムのデータを得られるということ。SAPの競争優位性を支える部分です。

 例えば、日本である取引が成立したとき、別の国にいる経営者は自分のモバイルでその情報がわかり、取引の規模などが瞬時に把握できる。さらには四半期単位の数字を見て、日本市場が好調であることがわかる──。そうなると、経営の方向性をリアルタイムに調整できます。あるいは、業績が振るわない地区を見て、どのようなアクションをすべきかを見ることもできます。

 リアルタイムなデータがあれば、アイテムの在庫が即座にわかり、次の日に出荷するようなビジネスが実現します。これは、シームレスなエクスペリエンスと共に顧客が強く求めている機能です。アマゾン・ドットコムでの買い物のようなカスタマーエクスペリエンスを、企業は自分たちの顧客に提供できるようになるわけです。

 このようなことをSAPのソフトウェアが可能にするために、インテリジェンスでリアルタイムなデータ利用は、事業上の大きなフォーカスとなっています。6年ぐらい前までは実現できませんでしたが、今のSAPでは可能です。

●Next:変化を嫌がる従業員にトランスフォーメーションを促す方法は?

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