[市場動向]

老舗フィリップスが生存を賭けて定めたパーパス─ありえない場所で行った幹部ミーティングの凄み

2021年9月28日(火)田口 潤(IT Leaders編集部)

周辺に何もなく電波も届かない米国アリゾナ州の僻地に、60人もの経営幹部が集結。1週間にわたって新たな方針や戦略を議論し、経営目標(パーパス)を練り上げた──。1891年設立のオランダの電機大手、フィリップス(Philips)の日本法人で社長を務める堤浩幸氏が富士通系コンサルティング会社主催のコンファレンスに登壇。こんなエピソードを披露した。うかうかしていると「へぇ、そんなこともしているのか」などと聞き流しかねないが、VUCAの時代に挑む欧州老舗企業の本気度が伝わってきた。

 富士通系コンサルティング会社のRidgelinezが2021年9月中旬に開催した「TRANSFORMATION SUMMIT 2021」。デジタルトランスフォーメーション(DX)をテーマにしたこのコンファレンスにおいて、「そんなことまでやるか!」と思わされたエピソードがあった。「DXの実現に向けて──今、変革に求められるリーダーシップとは」と題した3人のトークセッションでのこと。話題が「企業のパーパス(Purpose)は、どのようにセットすべきか?」になった際、フィリップス・ジャパン代表取締役社長の堤浩幸氏がフィリップス本社のやり方を披露したのだ。

ありえない場所で開かれた経営幹部会議

 最初に示したのが画面1である。建物はおろか、樹木さえ見当たらない人跡未踏の荒れ地っぽい場所に、いくつものテントが設営されている。堤氏はこう説明する。

画面1:オランダ・フィリップスの経営幹部会議がこんな場所で開かれた(出典:フィリップス・ジャパン)
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 「分かりにくいですが、米国のグランドキャニオンの一角で観光客が来ない未開と言って差し支えない場所です。PCもスマホもないし、あっても使えません。そんな何もない僻地に、フィリップスのリーダー約60人が世界各地から集結しました」

 グランドキャニオンは乾燥した山岳地帯なので、朝晩と日中の寒暖差は大きい。建物はもちろん森林もまれな、そんな過酷な場所にテントを設営し、泊まり込むのだという。「文字通りの大自然の中で、地球と向き合います」(堤氏)

 場所だけではない。フィリップスのリーダー、つまりエグゼクティブが集結したミーティングだけに、食事は豪華なビュッフェやコース料理が供されるのかと思いきや、堤氏は「食事はパンと水、キャベツ程度です」と事もなげにいう。もちろん、急病などの緊急事態に備えて医師が同行したり、移動用のヘリコプターの用意などはあるのだろうが、いずれにせよ都心やリゾートのホテルからはかけ離れた環境であることは間違いない。

 そんな空間を用意するのに加えて、時間も1週間をかける。「朝は6時から夜の11時ごろまで毎日、いろんな議論をします。『リーダーシップアスク(Leadership Ask)』と呼ばれるもので、生い立ちや失敗、成功のエピソード、自分には何が足りていて何が足りていないのかなどです。それを通じて互いに信頼関係を築きます。そこがスタートラインになります」。

 そのうえで経営戦略、自社はどうあるべきか、それはなぜかなどを議論し、さらにパーパスとして明文化していく。信頼関係を築き、深い議論をするには1週間もの時間が必要なのだ。

 筆者は、このエピソードを聞いて衝撃を受けた。米国企業なら例えばハワイやラスベガスのホテル、欧州企業であれば南欧のリゾート、日本企業だと軽井沢や那須などの保養地で、2~3日の経営幹部ミーティングを実施する話は何度も耳にしたことがある。大企業の幹部ミーティングはこうして、ある種優雅なものという印象があった。これに対して、超がつくほど辺鄙な環境をあえて選び、テント暮らしをしながら1週間にわたり朝から晩まで議論するフィリップスのようなスタイルは、寡聞にして知らなかったからだ。

 その過酷さゆえに、かつてテレビや雑誌などでよく取り上げられていた通称「地獄の訓練」(徹底したスパルタ教育による管理職や営業担当者の合宿研修)に通じると思えるほどだ。しかし地獄の訓練は、どちらかと言えば指示を受けて参加する研修。フィリップスの場合、エグゼクティブ自身がそうする必要があるとばかり、自らを追い込んでいるのである。まるでそこまでしなければ、本当に深く議論して全員が納得(腹落ち)する結論は出せないといわんばかりである。

欧州老舗の底力─明確で具体的なフィリップスのパーパス

 では、そうまでして描き出したフィリップスのパーパスはどんなものか? 同社のWebサイトに掲げられている文を日本語にすると、「フィリップスでは、意義あるイノベーションを通じて人々の健康と福祉を向上させるという目的が、すべての活動の中心にあります。(中略) 具体的には生活を改善する人々を、2025年までに年間20億人(うち3億人は十分なサービスを受けていない地域の人々)、2030年までにそれぞれ25億人、4億人に拡大することを目指しています」となる。

●Next:フィリップスのパーパスに示された経営目標の具体的詳細

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