[インタビュー]
業務とITの密着が進む今、ERPのリアルタイム化は必然─対談:ERPの次の方向性を聞く
2011年7月12日(火)IT Leaders編集部
仮想化やクラウド、ソーシャル、モバイルといった華々しい技術に関心が集まる中で、 実はERPパッケージも着々と、しかし大きく進化しつつある。進化の方向はどんなものか。 企業情報システムの専門家である札幌スパークルの桑原里恵氏に話を聞いた。 札幌スパークル システムコーディネーター 桑原里恵氏 聞き手 本誌編集長 田口 潤
─ ERPベンダーの製品発表で「リアルタイム」というキーワードをよく耳にします。この言葉が今、改めて浮上した背景には何があるのでしょうか。
桑原: ユーザー企業から見ると、リアルタイムは特定の製品技術にとどまらず、基幹系システムが直面する課題を顕著に表した言葉といえます。
元々、ヒト、モノ、カネという経営資源をリアルタイムに可視化し、経営の判断に反映することが、ERPのコンセプトでした。それが情報を基点とし、ITを組み込んだ業務プロセスへと広がって、今日のERPの姿があります。
一方、現実のビジネスはリアルタイム化が急速に進んでいます。グローバル化にも需要の急変動にも、リアルタイムなしくみの方が対処しやすく、むしろ自然で無理がありません。ネット上をリアルタイムに情報が流通し、人々が24時間活動をする。時間の流れに沿ってスピーディーにプロセスが動き、その様子が即座に伝わることは、企業にとってもごく当然になっています。
─ とはいえ“発生時点入力”など、利用者側から見た場合、既存のERPもリアルタイムであるように思えます。
桑原: ERPは確かに、発生時点でデータを入力し、リアルタイムに確定、後続の処理につなぎます。しかし今、リアルタイムの言葉が指しているのは業務プロセスであり、ビジネスです。
ビジネスの動きにリアルタイムに反応し、流れる業務プロセス。リアルタイムと共に”Motion in Business”という表現がよく使われていますが、ビジネスの1つ1つの動きをデータ化し、映し出すこと。結果を処理するだけでなく、ビジネスの瞬間を捉え、支援することを目指しています。
業務とITが密着、広がるITのカバー範囲
桑原: それには、現実のビジネスとシステム上との間に時差がないことが第一歩になります。同時に、業務プロセスとシステムの範囲を合わせなければならない。ERPパッケージの範囲で見るのではなく、事業の視点で業務プロセスを定め、その全体をITでカバーする。
逆に言えば、業務プロセスの側からシステムを考えることで、ERPのリアルタイム性がより重要になったわけです。
受注を例にとると、従来のERPでは一般に、注文確定後の結果を入力していました。しかし、営業担当者や顧客から見れば、それはプロセスのごく一部でしかない。ビジネスの状態や変化の兆しも、市場と近い「確定前」に顕在します。一早く考え、動くための情報です。
“発生時点”の対象が業務プロセスの最前線に広がっています。受注であればビジネスが発生する顧客接点。そして、この「前方部分」には複数の人が関わり、多くの情報が必要とされます。意思決定を支援するために情報を参照し、判断をその場で確定、そしてその情報を他の誰かが参照して、次の行動につなぐ。リアルタイムの情報を基点に複数の人が役割を遂行する形です。
─ 「情報を使ってビジネスする」ことと、リアルタイムはどう関係しますか。
桑原: 3つのポイントがあります。まず、リアルタイムに判断や行動をするには、リアルタイムのデータが必要であること。時差は遅さだけでなく、データの歪みや不正確さをまねきます。収集、流通、加工などあらゆる過程でステップをつめ、時差をなくすことが大切です。
2つめは、業務プロセスの範囲が広がっていることです。“発生時点”と判断のポイントが増えています。それをリアルタイムに処理できなければ、システムがブレーキになって、ビジネスのスピードを損なってしまう。同様に3つめには、1つの業務プロセス上に複数の組織が関与していることがあります。
リアルタイムのデータを共有することで、離れた所にいる組織が、最適なタイミングで業務を実行し、判断ができる。スピードだけでなく、ビジネスの柔軟性を高めるのです。
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