イノベーティブな開発基盤で自由な発想を確かなかたちに 2008年のリーマンショック以降、企業がコスト削減を目的に急ピッチで進めてきたITインフラの集約化・統合化は一定の成果を上げ、作業も一段落しつつある。そうした中で新たな課題となっているのが、「IT活用による売上げ増進」というトップラインにかかわるミッションだ。スマート・デバイス活用による個人の生産性向上や情報力強化、ワークスタイル改革は、それを実現するための有力な手段としてクローズアップされており、戦略性を持ったモバイル活用の構想と取り組みが求められている。ならば具体的に、何をどうすればよいのか──その1つの解を求めて、元CIO Magazine/Onlineの福田悦朋が、日本IBMの理事でソフトウェア事業 WebSphere事業部長、 三戸篤氏との対談に臨む。 ※この記事はCIO Online(2013年2月)に掲載されたコンテンツを転載したものです
強まるスマート・デバイス依存
福田:現在、実に多くの人がスマート・デバイスを日々の生活に欠かせないツールとして活用し、個人の情報ツールの主役がPCからスマート・デバイスへと急速にシフトしつつあります。そう考えれば、「in B(社内)」のシステム作りにおいても、あるいは「B to C」の仕組みを考える場合でも、「モバイルありき」で戦略を策定することが必須となります。
おそらくIBMさんも、そうした変化、あるいは動きを実感としてつかんでおられるのではないですか。
三戸氏(以下、敬称略) おっしゃるとおりですね。例えば、通勤途中の車内風景もここ数年でガラリと様変わりしました。ほんの3年くらい前までは、乗客の半数以上がまだ新聞を読んでいましたが、今ではほとんどの人がスマート・デバイスを操作している。おそらく、スマート・デバイスは、多くの人にとって1日の中で最も多く接する情報機器ではないでしょうか。そうしたデバイスを中心に新しいビジネスの仕組みを作っていくことは至極自然な流れだと思います。
福田:とすれば、「ビジネスでのモバイル活用」、あるいは「スマート・デバイスのビジネス活用」といった領域で、ユーザー企業からの相談事や引き合いもIBMさんの元に多く寄せられていると思います。具体的にどういった案件が増えていますか。
理事 ソフトウェア事業
WebSphere事業部長
三戸篤氏
三戸:お客様の間で高まっているニーズや実際に動き始めた案件をとらえると、大きく4 つの領域に集約することができます。
1つ目は、店頭販売やセールス活動における営業支援。2つ目は、ホワイトカラー層を中心としたワークスタイル改革。3つ目は、工場や設備保守などの現場における作業支援。4つ目は、B t o Cにおけるダイレクトなカスタマー・タッチの高度化です。
福田:なるほど、やはり「売上げの増進」や「業務の改革」といった辺りが、企業におけるモバイル活用の主題になっているようですね。企業にとっては、あくまでも目的はスマート・デバイスを使うことではなく、それを使ってどう自社を利するかですから、これは当然と言えば当然のことかもしれませんが。
三戸:そうですね。そもそもスマート・デバイスを使って何かが便利になっても、それが最終的な実利に結びかないようでは意味を成しません。ですから、モバイルによって「何を、どう変えるのか」「それにどんなメリットが生まれるか」を見据えながら、戦略を練ることが大切だと思います。
デバイス非依存の重要性
福田:モバイル活用の戦略を練るということは、要するに、アプリケーションをどう作るかの話になると思いますが、その際に強く意識しなければならないのは、スマート・デバイスが本質的にコンシューマー製品であり、猛烈なスピードで多様化や進化、変更が繰り返されるという点です。現在のスマート・デバイスにしてもOSの種類やバージョンもまちまちです
し、画面のサイズや機能も機種によって異なり、スペックは常に流動的です。
となれば、スマート・デバイス向けのモバイル・アプリケーションは、極力デバイスから切り離された「デバイス非依存」のかたちで開発を進めるべきという考えに至るはずです。
三戸:まさに、ご指摘のとおりです。デバイスに完全に依存してしまうと、かつてのベンダー・ロックインと同様に変化に対する柔軟性が失われます。とりわけ、スマート・デバイスは進化のスピードが激しいだけに将来に対する大きなリスクを背負ってしまいます。
福田:スマート・デバイス導入になかなか踏み切れない企業の懸念は、その辺りにもあるのでしょうね。
三戸:実際、私どもが相談を受けるお客様の中にも、デバイスやテクノロジーの選択に悩まれている方が少なくありません。そこで申し上げているのが、最初からマルチデバイスを前提にモバイル化に取り組むことの重要性です。
現時点では流動的ですが、将来的には多くの企業がBYOD(Bring Your Own Device:私物デバイスの業務活用)を正式に認める、あるいは全面的に採用する方向へと動くはずです。エンドユーザーにとっては自分のデバイスが最も使い勝手の良いものですし、BYODは運用のやり方次第で経済的な効果を企業にもたらしますから。また、社外の取引先や一般の生活者に向けて、モバイル・アプリケーションを展開したいということになれば、それこそデバイスは特定できません。その意味でも、「いつでも、どこからでも、最適なデバイスで使えるアプリケーション」の環境がますます重要になるわけです。
福田:ビジネスでのスマート・デバイス活用や業務アプリケーションのモバイル化を考えると、その他にも解決しなければならない課題が数多くありますよね。
例えば、スマート・デバイスの通信コストは従来の携帯電話と比べてかなり割高になりますし、現状のモバイル・ネットワークは、いつでも、どこでも確実につながるわけでもありません。ですから、ネットワークに非接続の状態でもアプリケーションを利用して業務が行えるような仕組みが求められるはずです。加えて、アプリケーションのデリバリやアップデートをいかに効率的に行うかも重要なポイントですし、セキュリティ確保の大切さについてはことさら強調するまでもありません。そうしたさまざまな課題を解決しないかぎり、スマート・デバイス活用の自由な発想を確かなかたちにすることはなかなか難しいと言わざるをえません。
三戸:そうした課題の解決にIBMの総合力が生かせると考えています。企業システムのモバイル化は、ポイントソリューションで実現できるものではありません。バックエンド・システムとの連携を含めたセキュアなプラットフォームを用意し、その上で必要なアプリケーションを展開していくというアプローチが必須となるのです。
オープンな技術でサステナビリティを確保
福田:I BMが提供するプラットフォームとは、どんなものなのでしょうか。
三戸:「IBM Mobile Foundation」というスイート製品がそれで、この製品では、モバイルのビジネス活用を巡るさまざまな課題に対応するための機能が、1 つのプラットフォームとして統合されています。この製品を用いれば、例えば、デバイス非依存のアプリケーション・コアとデバイス・ネイティブなプログラムを融合させたハイブリッド型アプリケーションが容易に開発できます。つまり、IBM Mobile Foundationでは、スマート・デバイスならではの機能を生かしながら、最小限の変更で多様なデバイスに対応可能なアプリケーションが効率的に開発できるわけです。また、モバイル・ネットワークへの非接続時にはデバイス・ローカルで動作し、接続時にサーバ側とのデータ同期を自動で行うといったアプリケーションの仕組みも簡単に構築できます。
さらに、このプラットフォームでは、スマート・デバイスのセキュリティを担保するMDM(Mobile Device Management)の機能をはじめ、ハイブリッド型アプリケーションの開発・実行基盤であるWorklightが組み込まれています。Worklightを使用すると、アプリストアを経由することなくモバイル・アプリケーションに含まれるWebリソースをサーバからタイムリーに更新することができます。さらに、モバイル・アプリケーションをクラウド(SaaS)サービスやERPシステムとコーディング・レスで連携させる「Cast Iron」も提供されています。
要するに、このプラットフォームは、モバイル・アプリケーションの生産性アップから、ユーザビリティ/セキュリティの確保、バックエンド・システムとの連携、運用管理の合理化に至るまで、あらゆる要求を満たす機能を装備しているわけです。しかも、モバイル・アプリケーションのログもサーバ側で収集・管理できるので、アプリケーションが実際にどれくらい使われているのかも把握することが可能です。これは、アプリケーションのROIやライフサイクルを見るうえで、とても有効な機能だと思います。
福田:なるほど、かなり豊富な機能を備えたプラットフォームですね。ただ、他ベンダーからも類似のソリューションが提供されていますが、それらと比したIBM Mobile Foundationの最大の強みはどこにあるのでしょうか。
三戸:その1つはオープンであることですね。やはり、固有のテクノロジーへの依存性が高いと、将来的に身動きが取れなくなるおそれが強まります。そこで私たちは、HTML5 やJavaScriptといったオープンなテクノロジーのみを用いてモバイル・アプリケーションを開発するという点をIBM Mobile Foundationの基本コンセプトとしています。
福田:これまでのモバイル・アプリケーションの開発では、ビジネス上のさまざまな要請に応じるかたちで、一貫性のない、個別対応的なアプローチがよくとられてきました。アプリケーションの目的や用途、さらには対象のデバイスの違いによって、利用する開発言語もツールも手法もバラバラといった具合です。
このような開発を続けていれば、当然、開発したアプリケーションのサステナビリティ(継続性)を確保するのは困難になるはずです。その問題解決に向けて、IBM Mobile Foundationが果たす役割は大きいと言えますね。
三戸:そう考えていただければ幸いです。さらに言えば、私たちは単なるITソリューションの提供にとどまることなく、パートナーとも協業しながら、モバイル化そのものを構想する上流コンサルティングから開発方法論、テクノロジーまでをワンストップで提供しています。この取り組みを通じて、エンタープライズ・モビリティの新たな世界を切り開いていきたい──それが私たちの考えであり、願いです。
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