シスコシステムズは2014年2月25日、同社が提唱する「フォグ・コンピューティング(Fog Computing)」を実現するためのソフトウェア・アーキテクチャである「IOx」に関する記者説明会を開催し、日本市場への投入を発表した。フォグ・コンピューティングは、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)に対応するための分散処理環境を実現するための仕組み。IOxは、分散処理のためのアプリケーションの開発・実行環境になる。
シスコが提唱する「フォグ・コンピューティング(Fog Computing)」は、クラウドへのビッグデータおよび、その処理の集中を回避するための仕組みである。クラウドとデバイスの間に「Fog」と呼ぶ分散処理環境を置くことで、大量データを事前にさばき、クラウドへの一極集中を防ぐ。
具体的は、ネットワークのエッジに位置するルーターにデータ処理機能を持たせることで実現する。ビッグデータの発生場所に近いエリアを、シスコが得意とするネットワーク機器で囲い込む戦略だとも言える。
IOxは、このFogを実現するためのソフトウェア・アーキテクチャである。シスコのネットワークOSである「IOS」と並列に、OSS(Open Source Software:オープンソース・ソフトウェア)の基本ソフトLinuxを搭載。Linux上にアプリケーションの開発・実行環境を用意することで、ネットワーク側に位置するPaaS(Platform as a Service)を実現する。
ネットワークのエッジにデータ処理機能が働く意味について、米シスコのIoTグループ担当バイスプレジデント兼ジェネラルマネージャのギド・ジュレ氏は、「クラウド上で一般的な『保存 → 分析 → アクション → 通知』という処理プロセスを『分析 → 通知 → アクション → 保存』に変えられる。状況の変化に対し、よりリアルタイムに行動を起こせるようになる」と説明する。
説明会では、Fogのパートナー企業として、smart-FOAとPreferred Infrastructureの2社が登壇した。smart-FOAは、製造現場の生データに、その解釈に必要な情報を付加することで意思決定や行動のスピードを速めるアプリケーションの開発ベンダー。Preferred Infrastructureは、機械学習用基盤「Jubatu(ユバタス)」などを開発するベンチャー企業である。両社とも、データの発生場所に近いところでデータを処理できることが、それぞれのソフトウェアの特性に合致しているとする。
Fogの推進に向けては、いくつかの課題がありそうだ。1つは、IOx対応のアプリケーション開発者の確保である。Fogのアプリケーションは、分散型かつデバイスとの通信など一般的に企業向けアプリケーションとは異なる要件にも対応しなければならない。この点について、シスコシステムズの木下 剛 専務執行役員は、「ネットワーク対応などを意識することなくアプリケーションを開発できるようなSDK(Software Development Kit)の投入を予定している」と話す。
もう1つは、IOxを搭載するネットワーク機器の共有である。一企業の専用ネットワークとして構築すれば、アプリケーションの動作環境やデータの扱いは問題にならないがコスト負担が増える。ネットワーク機器を共有しようとすれば、複数社のアプリケーションを独立に動作させるためのマルチテナント環境やセキュリティの強化などが必要になってくる。シスコとしては、「オープンデータなど業界の動きも睨みながら、今後詳細を詰めていく」(木下専務執行役員)考えだ。
クラウドの利用においては、モバイル対応や新規事業の立ち上げなど、新たなアプリケーションをどれだけ速く開発し利用するかが焦点になりつつある(関連記事『クラウドを味方にアプリを取り戻せ』)。PaaS事業者にすれば、どれだけのアプリケーション技術者を囲い込めるかで競争優位性が決まる。
IOxに対し、モバイル系や分散処理系のアプリケーション技術者などが、どう動くのか。技術者獲得競争が激しくなりそうだ。