ITサービスマネジメントが日本で普及して今年で十数年経つが、サービスデスクからITインフラ運用に至るエンドツーエンドの業務プロセスとデータ連携において、未だに人手に頼ったローテクの運用がなされており、それが運用効率とサービス品質のさらなる向上を阻害していることに多くの人は気付いていない。しかしこの分野でも技術革新が新たな時代を切り開こうとしている。
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サービスデスクと運用現場の至る所で
日常的に起きている非効率性
ITマネジメントに携わるIT部門のスタッフで、ITサービスマネジメントを知らない人は少ないだろう。しかし、その実践で継続して大きな改善の成果を得られているかと聞かれて自信をもってYESと答えられる企業は少ないかもしれない。
ServiceNow Japan ソリューション・コンサルティング本部 シニア・ソリューション・コンサルタントの矢落亮一氏は、「改善を阻害する要因は、サービスデスクとITインフラ運用の現場で依然として残る、Excel、電子メール、あるいはポイントツールによるバラバラのデータ管理と、分断されたプロセスを、人手による作業で補っている運用の在り方なのです」と訴える。
矢落氏によれば、この現状は非生産性とサービス品質低下にとどまらず、コンプライアンス問題やセキュリティリスクにつながることもあるという。具体的にはどのような事象が、生産性とサービスレベルの向上を阻害し、潜在的ITリスクを生じさせているのだろうか? いくつかの典型的なケースを見ていこう。
(1) サービスデスクの記録管理の非効率・不備と、システム変更記録との連携不備
エンドユーザーからの問合わせやシステム変更依頼をはじめ、インシデント管理やインフラ管理の実践にExcelや文書管理システムを活用している企業は少なくない。例えばシステムの変更依頼ではExcelの帳票を社内Webからダウンロードし印刷、記入。さらに捺印後、スキャンして電子化してメールで送信する、といった煩雑なフローが日常的に回されている。
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このような管理・運用手法では、ユーザーとサービスデスク間のメールのやり取りは必然的に増えることとなる。システム上で進捗の管理・共有が行えないため、「自分の問い合わせはどうなっているのか、前の申請はどうなったのか」といった確認が都度メールで行われるからだ。「そうしたメールのやり取りは、一回の依頼に対して15~30回にも及ぶこともあります」と矢落氏は話す。
また、Excelや文書管理システムによる管理では、「誰が申請して、誰が承認した業務なのか、その結果システムにどのような変更が発生したのか」を関連付けて追跡することが困難であるほか、煩雑なやり取りを続けた結果、「管理台帳と実態が違う」といった問題も生じてしまう。
(2) インフラ運用における非効率性
また、実際のシステム運用面についても、多くの課題が見受けられる。Excelによる作業手順書を受け取った運用担当者はベンダーの管理ツールなどを使って作業を行うが、最近では複数のベンダーによるオンプレミスのシステムだけでなく、クラウドの活用も進んでおり、マルチベンダーによるマルチプラットフォームでの管理ツールが運用されている。このようなシステムの複雑化は、作業ミスの頻発を招いている。作業ミスに対処するためにチェック工程や人員を増やすといった方策もあるが、結果、作業時間とコストが増加してしまうことになりかねない。
近年では、インフラベンダーのツールやRBAと呼ばれる自動化ツールによって運用プロセスの自動化を試みている企業も出はじめたが、リクエスト管理やCMDBとの連携については複雑なインテグレーションが必要であり、その導入や維持にかかる負荷を考えると多くの企業において現実的な解ではない。
(3) 資産管理・構成管理の不備がもたらす非効率性と潜在的リスク
また、資産管理についても、先に述べた理由から資産管理台帳の精度は低く、ハードウェア/ソフトウェア資産の導入がいつ行われ、誰が管理しているのかも分からないといった問題が頻出している。管理者やサポート期限が不明なシステムの存在は、セキュリティ上の問題にも繋がってしまう。
「このように現状のITサービスマネジメントでは、多くの課題を抱えています。かつ、各業務プロセス間のデータやプロセスが分断されているため、運用管理負荷の増大だけでなく、セキュリティやガバナンスの面で大きな問題を生じさせています」と矢落氏は警鐘を鳴らす。