米デル(Dell)によるEMCの買収統合が、予定よりも1カ月早く完了。2016年9月7日(米国時間)から新生Dell Technologiesとしての活動を開始した。両社で重複する製品群がどう整理されるのかなどが話題になってきたが、統合に向けてDellはソフトウェア/サービス事業を売却し、同分野には旧EMCの事業を、ほぼそのままに継承する形になった。
日本時間の2016年9月7日、23時から始まったオンラインでのメディア/アナリストカンファレンスにおいて、Dell Technologiesの会長兼CEOであるMichael Dell(マイケル・デル)氏は、自社について「PC、サーバー、ストレージ、仮想化、セキュリティの各分野でNo.1の企業が1つのグループに属する世界最大の非公開なテクノロジー企業」であると切り出した。売上高は740億ドル、従業員数は14万人、180カ国に販路を持ち、「Fortune500」の98%を顧客に持つ(図1)。
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特に強調したのが、「非公開」である点だ。Dellは2013年にMBO(経営陣による買収)で非公開企業になったが、同社がEMCを統合したことで旧EMCも非公開になった。これにより「短期的な視点にとらわれることなく、10年単位で顧客のためのインフラストラクチャーのあり方を考え、提供していける」(デル氏)とする。関係者によれば、「非公開になることで、例えばハイパーコンバージドシステムなどオンプレミスに導入する製品に対して、クラウドのような従量制課金などの政策が採りやすくなる」。ただし米VMwareなど傘下の公開企業は、そのままの形態で運営する。
Dell Technologiesは今後、市場や事業分野の別に複数のブランドを展開する。中堅・中小企業(SMB)に向けた「Dellクライアント・ソリューションズ」と、大手企業を対象にする「Dell EMCインフラストラクチャ・ソリューションズ」、そしてサービス事業を担う「Dell EMC Services」である(図2)。Dell EMCインフラストラクチャ・ソリューションズは、Virtustream、RSAの両ブランドも抱える。これら以外に、Pivotal、SecureWorks、VMwareは独立ブランドに位置付ける。
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こうした体制を同社は「小規模・中堅企業向け市場におけるDellの強みと、大規模企業市場におけるEMCの強みが融合」とするが、見方を変えれば、ハードウェアはDellが、ソフトウェア/サービスは旧EMCが担う形だ。実際、旧EMCは、ITインフラストラクチャーのクラウド化、すなわちSoftware Defined(ソフトウェア定義)化が進展するなかで、事業領域をよりアプリケーション分野へと広げたり、OSS(Open Source Software)への取り組みを強化したりしてきた(関連記事『Software Definedの進展でOSSコミュニティへの参画が不可避に』)。
例えば、主力のストレージ事業においても、データマネジメント用のソフトウェア開発が中心になり、ハードウェアとしては汎用品の利用率が高まっている。であれば、Dellのハードウェア調達力を生かせば、価格競争力が高められるとの判断だろう。2016年5月のEMC Worldでもデル氏は「Dellがもつサプライチェーンが有力な差異化要因になる」と話していた。
これはサーバー分野におけるハイパーコンバージド事業においても同様だ。共通のハードウェアを使いながら複数のソフトウェアスタックに対応することで利用企業の選択肢を増やす。Dell自身はこれまで米MicrosoftのAzure StackやOSSのOpenStackを使うハイパーコンバージド事業を展開。旧EMC傘下のVCE(Cisco、EMC、VMwareが2009年に設立した合弁会社)が扱うVMware環境からは一線を引いていた。VCEが今後、VCE事業部として存続し、ハードウェアにはDell製品を採用することもあるとする。
これら複数ブランドの中で、台風の目になりそうなのが「Virtustream」。当初、VMwareなどの仮想化環境でERPなどのミッションクリティカルなアプリケーションを稼働させるためのミドルウェアとの触れ込みで、VMwareとの統合を模索していた。だが、VMwareとの統合は断念し、旧EMC自身が展開するストレージのプライベートクラウドの基盤ソフトなどとして利用し始めていた。Dell Technologiesの製品体系ではPaaS(Platform as a Service)に位置付けられている(図3)。
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