新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界の経済・ビジネス環境を一変させた。コロナ禍で沈む企業もあれば、逆に成長を遂げる企業もある。自社の財務を司るCFOは、どのようなスタンスでこの危機をチャンスに変えていくべきだろうか。本稿では、調査結果や事例を交えながらCFOが今すぐ実行すべき「4つの大転換」について論じてみたい。
コロナ禍で前進するための大転換
米マッキンゼー・アンド・カンパニー(McKinsey & Company)が興味深いレポートを公表している。同レポートは、2008年秋のリーマンショックによる世界同時不況後に成長した企業に着目し、分析結果として、M&Aやイノベーションに投資した企業は、競合他社よりも経営の健全性が高い状態で不況から脱しているという。コロナ禍の現在、ここから学べるのは、「今は、企業のM&A(合併・買収)や生産性の向上、またはリスク管理への投資を削減すべきではない」ということだ。
マッキンゼーはこのレポートで、「結論として、事業環境は現在もこれからも不確実なままである。今動けば不確実さに圧倒されて動けなくなるのではなく、逆にその波に乗ることができるだろう」と指摘している。
企業は、成長を取り戻すにあたってM&Aや事業分割、新たなビジネスモデルなどに注目している。これらの“Big Moves”(大転換)”には精緻さが求められる。自社にとってのM&Aの最適な対象を最適な価格で探し出し、事業分割の影響をモデル化し、新たなビジネスモデルの成功の可能性を評価することが必要だ。
大転換には、変化を俯瞰して管理することも必要であり、データセキュリティやコンプライアンスを徹底し、迅速に新しい会社とシステム、従業員をまとめ、新部門を立ち上げるなど、競合他社が参入する前に新たなビジネスモデルで先行する必要がある。
以下、企業のCFO(最高財務責任者)が押さえるべき、復活と成長を有利な状況で進めるための「4つの大転換」について紹介する。
1.ビジネスモデルの革新を受け入れる
国際公認会計士協会(AICPA/CIMA)が最近配信したWebキャストによれば、1000人以上を対象に実施した調査で、回答者の46%が「自社の競争優位性を見据えた新たなビジネスモデルを重視している」と回答したという。
これは、コロナ禍の顧客行動の急激な変化により、組織が生き残り、企業が再び成長するための革新が必要なことを示している。企業がコロナ禍で需要が急増した市場に対して迅速に新たな製品・サービスを投入したり、製薬業界がかつてないペースでワクチンの提供を進たり、大学がオンライン教育に軸足を移したり、レストランが宅配に移行したりといった、ビジネスモデルの変化である。
米カリフォルニア州の非営利医療保険会社、米ブルーシールドカリフォルニア(Blue Shield California)でCFOを務めるサンドラ・クラーク(Sandra Clarke)氏は、「危機下でイノベーションを先延ばしにしてはならない」と助言している。同氏は、このニーズは緊急性が高いものだとして、「その中でも特に、テクノロジーをベースとしたソリューションは、よりポジティブな結果へとつながるイノベーションを牽引する触媒の役割を果たす」と指摘する。
かつて米ブロードコム(Broadcom)が米ブロケード コミュニケーションズ システムズ(Brocade Communications Systems)を買収し、(半導体というコア事業の枠を超えて)経営の多角化を図ったケースを挙げよう。このとき、ブロードコムにとっては、新たに製品カテゴリーが加わったことに加え、従来ブロケードが行っていたサブスクリプションサービスなどの新たなビジネスモデルへの対応が必要になった。新たな課題に対応するため、ブロードコムは製品ライフサイクル管理(PLM)と収益管理システムをクラウドに移行させた。イノベーションを起こすには、困難がつきものだが、テクノロジーがそこを支えているのだ。
2.M&Aや事業分割を支援
経済危機の状況下では、企業の買収や部門分割などを検討する機会と考えることもできる。事実、2020年の夏はM&Aが数十年ぶりの活況となった。国際ニュース通信社の英ロイター(Reuters)によると、世界のM&A取引額は、2020年第3四半期だけで1兆米ドル(約106兆8410億円)を超えたという。
しかし、売買を急ぐ中でも、財務には正確性が求められることは言うまでもない。最適なM&Aの対象を特定し、新たな部門を立ち上げ、事業分割の影響をモデル化し、新たな会社とシステム、従業員をまとめ上げることが必要だ。いかに新たなデータとプロセスを取り込み、単一かつ信頼性の高い財務の情報源を持つかということも見落とされがちだが、きわめて重要だ。
米ウエスタンデジタル(Western Digital)が、同社、サンディスク(SanDisk)、HGSTというフォーチュン500にランクインする規模の企業3社の、それぞれ3つのオンプレミスERPシステムを伴う合併を行った際に、この課題に直面した。3つのIT部門、3つの人事部門などコストセンターの重複が見つかり、さらには2000以上のアプリケーションが散在していた。例えば給与計算のためだけに、80ものシステムが使われていたのだ。
ウエスタンデジタルは、これらすべてのプロセスとデータを1つのオンプレミスERPに移行しようとするのではなく、事業の見直しを行うことにし、統合後はオラクルのOracle Cloud ERPを導入した。
同社のシニアディレクター、ビル・ロイ(Bill Roy)氏は「我々は1つの会計基準に統一することで、数千の勘定科目を1000程度に減らした。1万5000を超えるコストセンターは3000程度にまで削減することができた」と統合プロジェクトを振り返る。同社は現在、単一の勘定科目でクラウド運用しているため、今後のM&Aに伴う諸作業はより簡単に完了できると見込んでいる。
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