ガートナー ジャパンが、年次で発表している「戦略的テクノロジーのトップ・トレンド」の最新版を発表した(グローバルでは2022年10月17日発表)。2023年に企業や組織にとって重要なインパクトを持つトレンドを10個挙げている。ガートナーが中心に据えたのは「最適化」「拡張」「開拓」の3テーマで、2022年10月31日~11月2日開催の「Gartner IT Symposium/Xpo 2022」において、各テーマに紐づいた技術トレンドを、ガートナー ジャパン バイスプレジデントの池田武史氏が解説した。
2023年のキーワードは最適化/拡張/開拓
ガートナー ジャパン バイスプレジデント/アナリストの池田武史氏(写真1)は、経済や社会の混乱が続き、世の中が不透明な状況にある中、「組織を強化し、変化に対応し順応するため、CIOやITエグゼクティブはデジタルトランスフォーメーション(DX)を加速させながら、コスト削減だけでなく新たな形態のオペレーショナルエクセレンスを模索しなければならない」と指摘した。
そのうえで、池田氏は、「2023年の戦略的テクノロジーのトップ・トレンド」を紹介した。以下の3つのテーマを中心に据え、各テーマにおいてそれぞれのトレンドが現れているという構成をとる。
●最適化(Optimize):組織はテクノロジーを活用してレジリエンス、オペレーション、信頼を最適化し、コストの削減を図る。
●拡張(Scale):ITソリューションの垂直統合、製品デリバリーの迅速化、ワイヤレステクノロジーを拡張することで、成長を加速させる。
●開拓(Pioneer):新たな形態のエンゲージメント、高度な自動化、新たな市場機会へのチャレンジを先駆者のように開拓することで、DXを実現していく。
池田氏は、3つのテーマについて、ESG(環境・社会・ガバナンス)に対する機運や法規制の影響を受け、持続可能なテクノロジーを適用するという共通の責任へと発展する、とした。「そのため、今後のテクノロジー投資では常に未来の世代を念頭に置き、その効果と環境へのインパクトを相殺できるように行う必要がある。このことは、企業が『サステナビリティ・バイ・デフォルト』を目指す必要性が増してきており、持続可能なテクノロジーが必須になることを示している」(池田氏)。
戦略的テクノロジーのトップトレンドの内容
図1は、ガートナーが掲げる2023年の戦略的テクノロジーのトップトレンドである。池田氏は、上述の3テーマと、それらに紐づく技術トレンドをそれぞれ次のように説明した。
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最適化を実現するテクノロジー
●デジタル免疫システム:現在、デジタル製品・サービスの責任を担うチームの76%が、売り上げの責任も担う。CIOは、リスクを軽減し、顧客満足度を高めながら、高いビジネス価値を提供するために、チームで採用可能なプラクティスやアプローチを模索している。そのような取り組みを後押しするのが、デジタル免疫システムである。同システムは、オブザーバビリティ(可観測性)、AI拡張型テスト、自動修復、カオスエンジニアリング、サイトリライアビリティエンジニアリング(SRE)、アプリケーションのサプライチェーンセキュリティを組み合わせることで、システムのレジリエンスを向上するもの。ガートナーでは、2025年までに同システムに投資する組織は、ダウンタイムを最大80%%削減し、直接的に売り上げを拡大させるという仮説を立てている。
●オブザーバビリティの応用:デジタル化されたビジネスの中で観測可能なデータには、ログ、トレース、API呼び出し、ユーザーのページ滞在時間、ダウンロード、ファイル転送の状況などがある。オブザーバリティの取り組みでは高度なオーケストレーション/統合のアプローチをビジネスプロセス全体に適用し、データをプロセスにフィードバックすることで、オペレーションの最適化や組織の意思決定の迅速化が実現する。その応用により、企業は適切なタイミングで適切なデータの戦略的重要性を高め、迅速な行動につなげることができる。
●AI TRiSM(AI Trust, Risk and Security Management:AIの信頼性/リスク/セキュリティ管理):ガートナーが米国、英国、ドイツで実施した調査によると、AIのプライバシー侵害やセキュリティインシデントの経験がある組織は41%に上る。一方で、AIのリスク、プライバシー、セキュリティを積極的に管理している組織は、AIプロジェクトの成果を向上させている。企業は、AI TRiSMの観点で、確実性、信頼性、セキュリティ、データ保護といったAIの新しい能力を獲得する必要がある。その際、さまざまなビジネス部門と協力して継続的にAI活動全般を最適化していくアクションが求められる。
拡張を実現するテクノロジー
●インダストリークラウドプラットフォーム:SaaS/PaaS/IaaSを組み合わせて構築する、業種別に特化した機能群を提供するプラットフォーム。企業は、このプラットフォームを利用することで、アジリティ、イノベーション、市場投入期間の短縮を実現する。ガートナーは、2027年までに企業の50%以上がビジネス優位性の確保のためにインダストリークラウドプラットフォームを活用すると予測する。
●プラットフォームエンジニアリング:ソフトウェアデリバリーとライフサイクル管理を自動化する、セルフサービス型の企業内開発プラットフォームの構築・運用分野を指す。複雑なインフラストラクチャを自動化し、開発者のエクスペリエンスの最適化を図ることが目指されている。ガートナーは、2026年までにソフトウェアエンジニアリング組織の80%がプラットフォームエンジニアリングチームを結成し、そのうち75%がセルフサービス開発者ポータルを取り入れると予測する。
●ワイヤレスの価値向上:企業は、オフィスのWi-Fiからモバイルデバイス向けの4G/5G、低消費電力のLPWA、さらにはRFIDやNFCなどの近距離無線接続に至るまで、あらゆるワイヤレス環境に対応し、利用体験の向上に取り組むようになる。ガートナーは、2025年までに、企業の60%が、5種類以上のワイヤレステクノロジーを同時に使用するようになると見ている。取り組みが発展すると、ワイヤレスネットワークは単にアクセスを提供するだけの段階を超え、組み込まれた分析機能から知見を提供するようにもなる。
●Next:「開拓を実現するテクノロジー」としてガートナーが挙げた技術
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