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ロート製薬、企業間AIエージェント連携でサプライチェーンを最適化、検証では運搬コストが3割減

2025年12月1日(月)日川 佳三(IT Leaders編集部)

ロート製薬(本社:大阪府大阪市)は2025年12月1日、サプライチェーンを自律的に調整する「マルチAIエージェント連携技術」を導入すると発表した。仕入先や小売先など複数企業との調整業務をAIが担う。仮想のサプライチェーンで実施した実証では運搬コストを最大で30%削減する効果を確認した。2026年1月からは、ロート製薬の実際のサプライチェーンで検証する。

 ロート製薬は、医薬品や化粧品などを開発・販売している。2022年6月には、工場・倉庫・物流をつなぐサプライチェーンを最適化することを目的に、東京科学大学との共同研究をもとに開発した「サイバーフィジカルシステム(CPS)」をマザー工場である上野テクノセンターに実装し、デジタルツイン基盤を整備した。

 今後は、サプライチェーンの構成企業がそれぞれ導入しているAIエージェント同士が自律的に判断・交渉しながら全体最適を図る「マルチAIエージェント連携技術」(富士通が開発)を導入する(図1)。これにより、仕入先や小売先など複数企業との調整業務をAIが担い、サプライチェーン全体を、迅速かつ効率的に運用できるようにする。

図1:サプライチェーンの構成企業がそれぞれ導入しているAIエージェント同士が自律的に判断・交渉しながら全体最適を図る「マルチAIエージェント連携技術」の概要(出典:ロート製薬)
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 仮想のサプライチェーンで実施した実証では、物流のルートやスケジュールなどの最適化により、運搬コストを最大で30%削減する効果を確認した。今後、2026年1月から2027年3月にかけて、ロート製薬のサプライチェーンにおいて、実際の製造・流通・販売データを活用して検証する。

 マルチAIエージェント連携技術を、工場や物流の状態をリアルタイムで捉えるCPSと、CPSで使う数理最適化の仕組みに重ね合わせる。これにより、以下の領域への応用を目指す。

  • 工場間・倉庫間の輸送ルートや搬送計画の最適化
  • 出荷拠点や代理店在庫のリアルタイム補充判断
  • 生産スケジュールやリソース配分の自動最適化
  • 災害・需要変動時のリカバリーシミュレーション

 ロート製薬によると、サプライチェーン全体が自律的に判断・改善することで、需要変動が激しい環境下でも欠品や過剰在庫を抑えて必要な製品を安定して届けられる供給体制が実現できる。また、企業間でデータを共有して相互に調整することで、物流の効率が上がってCO2排出量が減り、人手不足が解消する。

知識蒸留により機密情報を共有せずにエージェント同士が連携

 マルチAIエージェント連携技術を開発した富士通によると、各企業の機微なデータを1カ所に集約できない都合上、従来のAIエージェント技術ではAIエージェント同士の協調は困難だった。そこで富士通は、(a)情報が不完全な状況下でも全体最適制御が可能な技術と、(b)AIエージェント同士を安全に連携させるゲートウェイ技術を開発した(図2)。

図2:「マルチAIエージェント連携技術」を構成する2つの主要技術(出典:富士通)
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 (a)不完全情報下での全体最適制御は、AIエージェント間で行う提案と回答のやり取りから、提案側AIエージェントが相手側AIエージェントにとって好ましいコスト・スケジュール・調達ルートなどの条件を推定し、サプライチェーン全体の最適な状態を見つけ出す。

 (b)エージェントゲートウェイは、分散型AI学習技術とガードレールで構成する。分散型AI学習では、各企業の機密情報やプライバシー情報を共有しなくてもサプライチェーンの特性を学べる。知識蒸留によって他のAIエージェントと知識を共有する仕組み。過去の連携における寄与度や信頼性をもとに知識を共有する相手AIエージェントを動的にマッチングする機能も備える。

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