ガートナーフェロー マッシーモ・ぺッツィーニ氏/米ガートナー SOA(サービス指向アーキテクチャ)の今日的意義は何か。これから導入するにあたっての壁はないのか。米ガートナーで、この分野を長年見てきた専門家に聞いた。(聞き手は本誌、川上潤司)
─SOAの採用とは、詰まるところESB(エンタープライズシステムバス)製品の導入と同義とする見方もある。
ペッツィーニ氏:業務プロセスの単位で用意したソフト部品やサービスを連携させて情報システムを機能させる─。SOAは、あくまでこうした原理原則を指すもので、特定の技術と関連するものではない。
とはいえ、ESBがSOAのイネーブラーの1つであることは間違いなく、最初のステップとして導入するケースは一般的だ。だが多くの場合、1〜2年するとESBだけでは不十分なことに気付き始める。SOAを採用した環境では、利用するソフト部品やサービスの数が膨れがち。事業環境の変化に合わせて1つひとつに変更を加えたり、新たに追加・削除しなければならないことも頻発する。こうしたソフト部品/サービスのライフサイクルを管理するのは実は並大抵ではない。
当然、それはベンダーサイドも認識済みで、個々の仕様や関連文書、バージョン、他との依存関係などを一元的に管理するリポジトリ製品を提供する動きも出ている。ESBだけに着目するのではなく、もっと広い視野でシステムアーキテクチャを見据えなければ、SOAは真の効果をもたらさない。
─いずれにせよ、SOA対応を標榜するベンダーの製品群を選定すれば基盤は整うということ?
ペッツィーニ氏:技術的視点で極論すればイエスかもしれない。実際、大手ベンダーの多くが今後、ミドルウェアやアプリケーション群をSOAベースにするのは自然の流れ。クラウドベンダーも同様だ。
だが、SOAの意義を考え直してほしい。激変するビジネス環境に即応するシステムを手に入れることに本質がある。企業は生き物であり、とりわけ昨今の大競争時代には、経営戦略を朝令暮改で見直すことも珍しくはない。目指すゴールを変えると決めた瞬間に、体もすぐに追随できる企業だけが勝ち残れる。つまりは、ビジネス視点を強く意識してSOAをとらえなければ、単に「システム連携基盤」の域を出ない。ユーザー自身が知識レベルを上げ、ベンダーに要求を突きつけるぐらいの気概が必要だ。
─これから取り組みを始める企業が、突き当たる壁があるとしたら。
ペッツィーニ氏:1つにはデータマネジメントの問題が考えられる。SOAは、データにアクセスするメカニズムは提供するが、正当性や一元性などを保証するものではない。
例えば、SAP ERPやSiebelといったシステムごとに顧客データを持っているのは普通のこと。実際には、レガシーも含めて、社内あちこちに似たようなデータが散在している。しかも、「顧客」「取引先」「パートナー」など、本来は同じなのにDB上の項目名が異なっているケースも少なくない。データ長やコードもまちまちだ。これらの違いを吸収するのは、とてもやっかいな問題だ。
「顧客」「製品」「価格」など、システムで扱う用語のカノニカル(基準)表記を定め、各システムにおける項目名との変換テーブルを用意するとともに、アクセスメソッドを定義する。こうしたサービスを作り、SOAの仕組みの中で呼び出すのは1つの解決策になり得る。いわゆるマスターデータマネジメント的な発想だ。
こうした席では5分で語れる内容だが、実際は多大な労力を伴う。今こそ、真剣にデータマネジメントのあり方を熟考しなければならない。