[技術解説]

ベンダーが描くアーキテクチャ─得意分野でリアルタイム性追求、新たな土俵にクラウド連携も

企業ITのグランドデザイン Part4

2011年10月18日(火)折川 忠弘(IT Leaders編集部)

ユーザー企業がシステムの「あるべき姿」を描くためには、ベンダーが掲げるアーキテクチャや、 それを具現化する製品/サービスに目を向けることも大切だ。パート5で解説する「ABA」も含め、 そこには多くの示唆があるからだ。本パートでは、海外/国内ベンダー各社がユーザーに向けて発信するメッセージを基に次世代のシステム像や製品戦略を整理した。折川 忠弘(編集部)

企業システムのグランドデザイン論として、大手ベンダーはどのようなメッセージを打ち出しているのか。

業務要件とITを密接に結び付けるビジョンを銘打つケースもあれば、自社製品群の全体像を整理するコンセプト、プラットフォームに柔軟性をもたらす方法論などもあり、そのレイヤーや意味づけは一様ではない。

ないまぜ感はあるにせよ、「各社CEOがユーザーに語りかける内容や、製品ポートフォリオの拡充状況を注視すれば、描くべきグランドデザインの重要なヒントが得られる」(アビームコンサルティング プロセス&テクノロジー事業部 ITマネジメントセクターリーダー 原一郎氏)のは事実だ。主要なベンダーのメッセージから見える次代のシステム像を探ってみよう。

経営とITの合致を目指す実践的アプローチ

次代のグランドデザインを明示的に打ち出す1社がIBMである。企業の情報システムに深く食い込んできた自負と責任感が背景にある。

提唱するのが「ABA(アクショナブル・ビジネス・アーキテクチャー)」だ。変化対応力を備えた情報システムを具現化するにあたって必要となるアクションを方法論として整理。全体構成のデザイン描出や、その後のシステム構築の過程を対象に据える(詳細はパート5を参照)。

「企業として『あるべき姿』を明確にし、経営戦略や業務と緊密に連携したシステム像を目指すべき。そのためには、戦略と業務プロセス、ITの相互の『整合性』を念頭にモデル化するアプローチが肝となる。それぞれを可視化、部品化し、環境変化に合わせた“入れ替え”で変化対応力を担保する」(日本IBM アプリケーション開発事業 エンタープライズ・テクノロジー&アーキテクチャ ビジネスアーキテクチャー 細谷浩司氏)。

「部品の入れ替え」を具現化するものとして、SOA(サービス指向アーキテクチャ)の重要性を訴える。「変更の局所性を追求すれば、必然的にSOAにたどり着く。今後はサービス部品を外部から調達できる環境も整ってくる。開発の手間やコストを抑える上でも非常に有効だ」(細谷氏)。

ERPを基軸に弾力性と迅速性を追求

ERPパッケージを中核に企業に深い関わりを持ってきたSAPはどうか。今後のERPの発展形(利用シーン)として全面に打ち出しているのが「オンプレミス、オンクラウド、オンデバイス」という考え方だ。「すべてはリアルタイム性の追求という点で結び付く」(SAPジャパン リアルタイムコンピューティング推進本部 本部長 馬場渉氏)。

オンプレミスの領域では、インメモリーでデータを処理するHANA(High-Performance Analytic Appliance)が目立つ存在だ。ERPとBI(ビジネスインテリジェンス)の融合を打ち出す。経営の意思決定に必要なデータを瞬時に入手できる新しい基幹システム像を示している。

一方では、「SAP ERP」のクラウド化を推し進める。国内ではすでにNECやNTTデータグループがクラウド経由で提供を開始するほか、中小企業向けの「SAP Business ByDesign」の提供を予定する。基幹システムもクラウドでまかなえるという宣言だ。

場所を問わずに、意思決定や業務アクションを起こせるようにする。これが「オンデバイス」に力を注ぐ背景で、2010年にはモバイル技術に強みを持つサイベースを買収した。モバイル向け開発環境「Sybase Unwired Platform 2.0」や、モバイルからSAP ERPなどの基幹システムへアクセスする「SAP NetWeaver Gateway」などを矢継ぎ早に発表している。

自社製品スタックの理想的な組み合わせを提示

データベースをルーツに、各種のミドルウェアや業務アプリケーション、そしてハードにも事業分野を拡大してきたオラクル。同社は「自社の製品スタックを組み合わせて提供する」ことに力を注ぐ。データベースマシンのExadataや、クラウドアプライアンスのExalogicはその典型例だ。

ハードがコモディティ化する流れを受け、ITプラットフォームについては、ソフトも含めて最適化した状態のプロダクトを市場投入するやり方が時代に合っているとの考えが根底にある。その構成には、オラクルが考えるシステムデザインが当初から反映されているわけだ。

アプリケーション分野では、「ピュアSOA」を謳い、5年近くを費やして開発したという「Fusion Applications」の本格投入が控えている。業務に応じて必要な機能を選択/利用できるのが特徴だ。「変化対応力を高める」という課題に対してオラクルが示すアプリケーションレイヤーの解の1つだ。

昨今のトレンドを組んだ動きとしては、デバイス間のデータのやり取りを自動化する「M2M(マシン・トゥ・マシン)」にも取り組んでいる(図4-1)。同社が提供するプラットフォーム上に、用途別のソリューションを必要に応じて載せていくことで新たなニーズに応えていく姿勢を打ち出す。

Windows Serverを軸に企業システムの一角を担ってきたマイクロソフト。同社がエンタープライズに向けた「ソフトウェア+サービス」のメッセージは、「オンプレミスとクラウドの違いを意識せずに業務アプリケーションを利用できる環境」の重要性を説いたものである。社内に温存すべきものは残し、一方では柔軟性に優れたクラウドの世界にソフトランディングできる道筋も示す。

具体的には、Windows Azure Platform を活用した情報システム像である。OSレベルにとどまらず、データベースやストレージ、開発環境、運用管理、ユーザーインタフェース…。すべてを、クラウド/オンプレミスでシームレスに扱える環境を次代のシステム像として描いている。

図4-1 オラクルのM2Mサービス・プラットフォームの構成要素
図4-1 オラクルのM2Mサービス・プラットフォームの構成要素(画像をクリックで拡大)
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