[イベントレポート]
ソフトウェアAG、デジタルエンタープライズを睨んだ3つの新製品をリリース
2013年10月18日(金)五味 明子(ITジャーナリスト/IT Leaders編集委員)
クラウド、モバイル、ソーシャル、ビッグデータという4つのITトレンドはコンシューマ領域での爆発的な普及をベースに、その影響力を企業ITにも大きく及ぼそうとしている。この状況下、BPA(ビジネスプロセス分析)やSOA(サービス指向アーキテクチャ)などを主軸にビジネスの高速化/効率化を提唱してきたSoftware AGはどのような価値を提供しようと考えているのか。10月8~10日の3日間、米サンフランシスコで開催した同社の年次カンファレンス「Innovation World 2013」の基調講演を中心にトピックをまとめる。
デジタルエンタープライズを睨んだ3つの新製品
Software AGは今回のInnovation World 2013に合わせ、以下の3つの新製品/新バージョンを発表した。
- Portfolios Live … PaaSベースで企業が保有するIT資産(ポートフォリオ)を管理する
- Process Live … SaaSベースでプロセス管理にソーシャルの情報を統合する
- webMethods 9.5 … ビジネスプロセス統合プラットフォーム。ピークに応じてキャパシティを変更する「Elastic ESB」、最適なタスク実行者をアサインする「Social BPM」、進行中のプロセスをモバイル端末(iOS/Android)からモニタリングする「Mobile BPM」の新機能を追加
同社は目下、クラウドシフトの戦略を鮮明に打ち出している。数多くの競合が存在するPaaS分野において、今年4月にサンタクララの専業ベンダー、LongJumpを買収したのは記憶に新しい。Portfolios LiveとProcess Liveは、2013年5月にローンチしたSoftware AGのクラウドソリューションの総称「Software AG Live」を構成する製品という位置づけとなり、クラウド強化策を着々と進めていることが伺える。
例えばPortfolios Liveは、保有するIT資産の状況を可視化・透明化し正しく把握することで、インフラ環境の刷新やIT予算の適切な行使につなげる狙いがある。Process Liveは、ソーシャルメディアから得られる情報とビジネスプロセス管理をひも付け、顧客の“エクスペリエンス”の向上を図る。共にクラウドベースのサービスである。また、2014年第1四半期にはSoftware LiveのスイートとしてパブリッククラウドやプライベートクラウドとESBおよびwebMethods環境を統合する「Integration Live」が提供される予定だ。
カンファレンスの最後に発表されたwebMethods 9.5は、新たに加えられた機能を見れば分かるように、Software AGがいうところのデジタルエンタープライズ<クラウド、モバイル、ソーシャル>を強く意識している。エンタープライズにおけるビジネスプロセス統合製品として歴史と評価のあるwebMethodsだが、ビジネスプロセスの世界にもコンシューマライゼーションの波が押し寄せていることを実感させる機能強化となっている。
デジタルエンタープライズは企業ITの世界を変えるか
Software AGが今回のイベントで何度も強調した"デジタルエンタープライズ"というキーワード。同社に限らず、最近は「デジタル(digital)」という単語を、エンタープライズのコンシューマライゼーションという現象になぞらえて使う企業が増えている。すなわち、クラウド、モバイル、ソーシャル、ビッグデータという4つに象徴されるITトレンドをいかに追い風として自らを変革し得るかというテーマでもある。「競合との差異化ポイントを際立たせてビジネスで勝者となるにはイノベーションが必要であり、それこそが顧客に価値を届ける源泉となる。我々が提供するデジタルエンタープライズとはまさにイノベーションに必須な存在だ」(同社CEO カールハインツ・シュトライビッヒ氏)。
【写真1】基調講演の壇上に立つカールハインツ・シュトライビッヒCEO
2日目のキーノートで同社CTOのウォルフラム・ヨースト(Wolfram Jost)氏は「今起こっているデジタライゼーションの流れは単なるオートメーションとは明らかに違う」と強調した。それは「カスタマーエンゲージメント」、つまりは顧客との関係性に大きく関わってくる点で異なっているという考えだ。「企業は今後、より顧客にシフトしたビジネスモデルを選ぶ必要に迫られる。顧客に受け入れられるビジネスモデルを指向するなら、それはよりイノベーティブでなければならない」とヨースト氏。そのためにはビジネスプロセス構築にあたってもデジタルエンタープライズを意識する必要があるとする。今回Software AGが発表した新製品がいずれもクラウドやソーシャルを前面に出しているのは、顧客に製品を提供する前の段階でイノベーティブである必要性を訴求しているからにほかならない。
【写真2】CTOを務めるウォルフラム・ヨースト氏
【画面1】「ソーシャルメディアをBPMに取り込むことが重要な改善のポイントだった」とヨースト氏
同社が矢継ぎ早に進めているポートフォリオの整理/拡充や買収も先の主張に沿ったものだ。あらためて主要製品分野を整理すると以下の4つの柱がある。
- ビジネスプロセス … Alfabet、ARISなど
- インテグレーション … webMethodsなど
- ビッグ&ファストデータ … Apama、Terracottaなど
- トランザクション … Adabas Naturalなど
読者の中には、Software AGといえばビジネスプロセスやSOAの企業といったイメージを抱く向きが多いかもしれないが、これまで触れてきた通り実態は大きく変わっている。同社自身がデジタルエンタープライズへの対応を掲げ、コミット領域の選択と集中を実践している証左だ。Innovation World 2013ではCMOのイボ・トテフ(Ivo Totev)氏が終始に渡ってホストを務めた。これは顧客とのエンゲージメントを強化する施策を象徴するものとして強く印象に残った。
【写真3】会期中にホスト役を担ったCMOのイボ・トテフ氏
コンシューマITとエンタープライズITは相容れないものとの保守的観念に縛られ続けるか、それとも今やすべてか渾然一体となって進む世界的トレンドととらえて戦略の方向性を見直すのか。それはITベンダーのみならず、ユーザー企業にとっても重要な課題として浮かび上がっている。