文字通りの「創造的破壊(Disruption)」であり、「ERPのイノベーション」である――そう呼ぶに値する斬新なERPパッケージを、ワークスアプリケーションズが開発中だ。牧野正幸CEOは「エンタープライズアプリケーション(企業向けアプリケーション)のユーザービリティを、コンシューマアプリケーション(一般消費者向けアプリケーション)と同等以上に高める。そのためにRDBから脱却し、クラウドネイティブの技術を採用した」と語る。そこにはエンタープライズアプリケーションに対する強い問題意識と、技術への確信がある。牧野CEOに詳細を聞いた。ぜひお読み頂きたい。(聞き手はIT Leaders発行人の田口潤)
─驚くほど使いやすく、応答速度も優れたERPパッケージを開発していると聞きました。マルチデバイス対応で、しかも検索機能も充実していると。正直、イメージを掴めないのですが、主力のERPパッケージである「COMPANY」を改善したものでしょうか。
牧野 いえ、そうではありません。クラウドを前提に、つまりクラウドネイティブでゼロから作り直しています。コンシューマ向けのクラウドサービスであるGoogleやアマゾンなどは、とても使いやすいですよね? 例を挙げると、検索語を入力する途中で複数の候補を表示するGoogleのサジェスト機能はとても便利ですし、何より楽です。そうしたものと同等以上のユーザービリティやレスポンス性能を、エンタープライズアプリケーションで実現するものです。
─「クラウドを前提に」というのは、具体的にどういうことです?
“本当のクラウドネイティブ”に向け
RDBから脱却
牧野 まずリレーショナル・データベース(RDB)(※1)から脱却します。Googleをはじめコンシューマアプリケーションを提供する企業は、RDBを使っていません。我々もRDBを捨てて、NoSQL型のデータベースである分散キーバリュー・ストア(KVS)(※2)を採用しました。もちろんエンタープライズアプリケーションはRDBが前提ですから、完全に捨てるのではなくて外部連携には利用します。
─え!? 今おっしゃったように、エンタープライズアプリケーションではRDBが前提です。特に基幹業務システムの分野では、そんな話は聞いたことがありません。
牧野 詳しくお話しましょう。RDBは優れた技術ですが、それは性能ではなく、保守性に関してです。データを正規化して保持し、データ構造を変更したりカラムが増えたりした場合でも、整合性を保持しながら容易に対応できます。SQL(構造化問い合わせ言語)を使ってデータを抽出することも簡単にできる。このことがエンタープライズアプリケーションの構築に大きなメリットをもたらしました。データ管理を気にせずに業務機能の開発に専念できるので、生産性を高めることができるのです。
ですから、我々を含めほとんどのERPベンダーはRDBを採用してERPを開発してきました。これは言わばRDBの呪縛であり、そのようなERPパッケージの構造は、20年前から今も続いている。Webやインメモリー処理といった技術進化には対応していますが、基本的な構造は変わっていません。
─確かにそうです。それで一体、どんな問題があるのでしょうか。
牧野 致命的なのは、RDBはクラウドとの相性が悪いことです。1台、もしくは数台のサーバーで集中処理するスケールアウトの時代は問題ありませんでしたが、1万台のサーバーで分散処理をするクラウド時代になると問題が出てきました。スケーラブルな分散処理を実現すればレスポンスを高められるのに、RDBが阻害してしまうんですよ。ですから多くのコンシューマ向けのクラウドサービスのコアにはNoSQL型のDBが使われています。先ほど挙げたサジェスト機能は、その典型例です。
─仮にそうだとしても、エンタープライズアプリケーションにサジェスト機能が必要でしょうか。
牧野 例えば田口さんから、何か注文をもらったとします。入力画面で「田口」と入れると、会社名や住所はエンタープライズアプリケーションやネット上にあるはずなので、「インプレス」という会社名を自動入力できるはずです。ところがRDBをコアにする今の技術だと、一瞬で検索して情報を持ってくることができません。だから全部、手入力する必要があるんですよ。
パソコンに比べてタブレット端末の何が便利かというと、多くの入力をしなくて済むことです。アマゾンだって、一度入力した住所などは覚えておいてくれる。エンタープライズアプリケーションがそうなれば便利ですよね。我々は開発中の新製品でそれをやろうとしているんです。