インメモリー技術の全面採用で高速データ処理を可能にするSAP HANA。ポテンシャルを十二分に発揮させるには、それに最適化されたインフラ、そしてノウハウが欠かせない。SAPとの協業を推進するシスコは、この領域でどのような価値を提供しようとしているのか。2015年11月12日に都内で開催された「SAP Forum Tokyo」において、「シスコが提供するSAP HANAインフラ 最新導入事例と技術情報のご紹介」と題して行われたセッションの主要トピックを紹介する。壇上に立ったのは、シスコシステムズ合同会社 パートナーシステムズエンジニアリング SAPコンピテンスセンターの赤坂知 氏だ。
合理的な統合管理機能で急成長するUCSサーバ
ビジネスの現場で「今起こっていること」を正確に把握し、最適な意思決定の下で商機を確実にものにしていく──。熾烈な市場競争の中で勝ち残りを図る上では、欠かせない取り組みだ。ここでカギとなるのが、他に勝るスピード感。リアルタイム性を追求した経営管理システムを整備することが重要課題として浮上している。
理想的な環境とはいかなるものか。ここに、最新テクノロジーで一石を投じたのがSAPである。ERPパッケージの領域をリードしてきた自負と責任の下、その機能を存分に発揮させるものとして世に提示したのが、インメモリーDB技術を核とする「HANA」だ。同社のERPをSAP HANA上に構築する「SAP Business Suite 4 SAP HANA」(SAP S/4 HANA、かつてはSAP Business Suite powered by SAP HANA=SoHとも)は、トランザクションとアナリティクス処理のリアルタイム化を具現化するものとして大きな注目を集めている。
インメモリーDBとしてのSAP HANAを実装するインフラは、サーバベンダー各社がそれに最適化させた製品(アプライアンスなど)を市場投入しているが、早期から力を注いできた1社がシスコである。「SAP Forum Tokyo」のセッションに登壇したシスコの赤坂知氏は、最新の取り組み状況や具体的な導入事例を来場者に詳しく解説した。
赤坂氏は冒頭、シスコのサーバビジネスの概況について言及。市場調査会社のリサーチ結果を参照しながら「例えばx86ブレードサーバの市場シェアでは、当社のUCS(Unified Computing System)シリーズが北米ではトップ、ワールドワイドでも2位のポジションにあります」と堅調に推移してことを訴求し、「近い将来にどこのサーバに切り替えたいと思うか」との調査においてもシスコUCSが首位にあるとあらためて強調した。
x86サーバはコモディティ化が進み、価格も性能も大同小異でメーカーの違いが出にくいとの声が聞こえてくる。そうした中で、シスコが広い支持を集める理由はどこにあるのだろうか。赤坂氏は、(1)管理機能が充実していてサーバの運用管理が楽になる、(2)クラウド・仮想化技術にネイティブに対応している、(3)SAP HANAをはじめとした最新テクノロジーに手厚く対応している、ことを挙げる。
UCSは、サーバやネットワーク、ストレージといった物理的なコンポーネントを限り無く抽象化すべく設計されている。多数のサーバを、あたかも1台であるかのように管理できるほか、ストレージやネットワークへの接続も統合している。「物理的な配線は導入時の数本のみで、これをI/Oやワークロードの特性に応じて論理分割して使えます。関連機器を減らすとともに、拡張しても構成がシンプルに保たれることから、真の統合管理を実現するものとして好評を得ているのです」(赤坂氏)。ネットワークを得意としてきたシスコの技術力が存分に活かされているのだ。
「とりわけ、インメモリーで高速処理するSAP HANAをサーバに実装する際には、最低でも10ギガのネットワーク帯域を確保したいところ。低遅延で太いネットワークでないと、そこが全体のボトルネックになってしまうからです。さらに、本番系、管理系、バックアップ系など何本ものネットワークがほしくなる局面で、UCSの場合は、例えば40ギガを1本用意しておいて論理分割して使えるので、導入時の設定や運用管理がとても楽になるのです」と赤坂氏。
技術検証を重視し専用の場を無料提供
HANAのポテンシャルを発揮させる数々の機能をUCSサーバが備えていることもさることながら、利用企業の立場に立った手厚いサポート体制を整えていることがシスコの大きなアドバンテージとなっている。
その筆頭に挙げられるのが、充実した検証環境の提供である。SAPは、世界各地の8拠点に「SAP Co-Innovation Lab(COIL)」という場を用意し、協力関係にあるパートナーと共に、さまざまな技術検証を実施している。ここに、SAP認定のサーバベンダーとして最大限にコミットしているのがシスコだ。
日本のCOIL Tokyoは、東京都千代田区にあるSAPジャパンの本社ビルにある。シスコは、14セットものSAP HANAアプライアンスサーバを設置。EMCやネットアップのストレージなどとも組み合わせ、実際のSAPシステムを構築して、様々な実証実験やPoC(Proof of Concept)を展開できるようになっている。ユーザーやSIerなどが無料で活用できる(図1)。
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「インメモリーでの処理はどのぐらい速いものなのか、起動時におけるデータのロードにはどれほど時間がかかるのか、HA(High Availability)構成やDR(Disaster Recovery)環境での動作は確実か…。机上論だけでは分からない様々な事柄を実機環境で検証できる意義は大きい。COILの活用で、本番稼働に向けて着実に歩を進めることができるのです」(同氏)。