[市場動向]

As-Is/To-Beはもはや限界、“DXの見取り図”からデジタル基盤を築けるか

IPA「デジタルアーキテクチャ・デザインセンター」設立の背景と目的

2020年10月30日(金)佃 均(ITジャーナリスト)

2020年5月、独立法人情報処理推進機構(IPA)に「デジタルアーキテクチャ・デザインセンター」(DADC)が新設された。闇雲にデジタルトランスフォーメーション(DX)を模索するのでなく、デジタル技術で実現する“見取り図”から逆算して、必要な技術基盤や法制度、人材などの体系を整えていくという。このユニークな取り組みは従前、システム設計・開発の絶対則のように考えられてきた「As-Is/To-Be」の限界を浮き彫りにしたように思えてならない。

“見取り図”から逆算で必要な共通基盤を検討

 2020年10月22日のCEATEC 2020 ONLINEのコンファレンス内プログラムとして、午前10時から経済産業省/情報処理推進機構(IPA)による「“デジタルアーキテクチャ”で作り出す産業構造のDX」が開かれた。講演やパネルディスカッションを通じて、デジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)の設立趣旨や今後の展望などを解説し、デジタル社会に向けたITの役割について理解を広めるのがねらいだ。

 コンファレンスは、冒頭5分間とはいえ、梶山弘志経産相が挨拶に登場する力の入れようだった。講演は規制改革推進会議議長を務める三菱ケミカルホールディングス会長の小林喜光氏、米マサチューセッツ工科大学 航空宇宙工学部 教授で書籍『Engineering Systems』著者のオリヴィエ・デ・ヴェック(Olivier L. de Weck)氏、DADCセンター長に就任したファナック副社長/IoT統括本部長の齊藤裕氏という豪華な顔ぶれだ。

 “本論”は後半の50分間、「Society 5.0実現に向けた“アーキテクチャ”の役割について」と銘打ったパネルディスカッションだ(写真1)。DADCアドバイザーチームの座長でモデレーターを務めた慶應義塾大学大学院 教授の白坂成功氏によると、「デジタルアーキテクチャ」とは「デジタル市場の将来像を見据えた全体の見取り図」という。

写真1:CEATEC 2020 ONLINEコンファレンスのCh1-301パネルディスカッションの顔ぶれ

 またパネリストからは、「専門領域の境界が溶解し始めている」「ポストCOVID-19における人間中心のサービスデザインのコア」「これからのビジネスに欠くことができないグローバルな要求」「信頼のあるデータの流通が重要」といった指摘があった。

画面1:IPA デジタルアーキテクチャ・デザインセンターのWebサイト
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 ここ数年、一気に実用化が始まったIoT、ビッグデータ、AI、5Gが実現するのは、ドローンや自動運転、自律型ロボットばかりではない。人口減少・超高齢社会における持続可能な住民起点のMaaS、ルールベース(法制度の手続き型規制)で維持されている社会・産業の安心・安全からゴールベース(運用時の不確実性を予測)の安心・安全への転換、自律型ロボットがさまざまな局面で活躍する社会・経済・暮らし……といった近未来像が語られた。

 そのような近未来像=デジタル市場の見取り図を実現するために、安心・安全はどのように確保するのか/契約や保証はどうか/システムの観点でクラウド基盤やデータ流通の仕組み/データの品質を担保する方策はどうあればよいのか──等々を1つずつ検討し、体系化する。

 見取り図から逆算して、社会・経済全体に共通する基盤を検討し、産業ドメインのモデルに落とし込んでいく。その意味では、それぞれの立ち位置によって解釈に幅がある「アーキテクチャ」ではなく、「デジタル見取り図」というような言葉を使ったほうが、広く一般の分かりが早いかもしれない。

DADCの設立経緯と、始動した3つの取り組み

 確認の意味で記しておくと、DADCは2018年9月に経産省が公表した『DXレポート~ITシステム「2025年の崖」の克服とDXの本格的な展開~』を受けたものだ。先進的なIT利活用に取り組む企業を選定する「攻めのIT経営銘柄」が「DX銘柄」に変更されたのもその一環となる(関連記事経産省が「2025年の崖」対策の第2弾を発表─「DX銘柄」と「デジタルガバナンス・コード」を読み解く「DX推進指標」レベルを280社が自己診断、結果から浮かび上がる“6つの頂”とは)

 このコンファレンスに先立つ10月16日、経産省で開かれた「Society 5.0の実現に向けたデジタル市場基盤整備会議」では、人文科学系、社会科学系の研究者やアニメーターなど、ITに直接の関わりはないけれど、近未来の社会・経済を語る上で欠かせない見識や想像力の保有者を加えてはどうか、という意見もあったという。

 同日、IPAは「第1回産業アーキテクチャの検討事業インキュベーションラボテーマ」を発表している。8月からの公募で選ばれたのは次の3テーマだった。

①サービスロボットのより広範な活用に向けた安全・安心を確保するためのガバナンスモデルおよび関連産業を含むビジネスエコシステムを実現するアーキテクチャの検討

②家庭生活で使用される汎用機器を用いたPersonal Generated Data(個人から生成されるデータ)を活用した健康管理・予防を中心とするサービスを実現するアーキテクチャの検討

③「第三者データ取引機能」を通じて信頼性を担保したうえで、多種多様な分野間のデータの流通・活用を可能とするアーキテクチャの検討

 DADCの全体像(図1)が固まり、センター長、プロジェクトリーダー、アドバイザーが決まり、検討テーマが選定された(図2)。経産省でも専門家会議がスタートした。そのうえでの10月22日のオンラインコンファレンスは、DADCの始動を告げるイベントだったことになる。

図1:デジタルアーキテクチャ・デザインセンター(DADC)の全体像(出典:情報処理推進機構)
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図2:DADCの提案するSociety 5.0アーキテクチャ3つの観点(出典:情報処理推進機構)
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 ちなみに上述の①~③の選定テーマを、強いて図3のDADCの資料「現在進めている取り組み」に当てはめると、①は「相互運用性を高めるアーキテクチャ」、②は「社会インフラのアーキテクチャ」③は「ガバナンスアーキテクチャ」に相当するだろうか。

図3:現在進めている取り組み(出典:情報処理推進機構)
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●Next:As-Is/To-Beが長年絶対視された理由と、ここに来ての限界

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