百貨店やスーパーなどで、高さが170cmほどの搬送用台車をよく見かける。物流業者である紀文フレッシュシステムは長年、このカゴ台車の流出によるコスト増に頭を痛めていた。カゴ台車を、いつの間にかどこかに消える消耗品ではなく、資産として長く使いたい―。同社はそんな願いを、ICタグを活用することでかなえつつある。聞き手は本誌編集長・田口 潤 Photo:陶山 勉
- 星川 隆 氏
- 紀文フレッシュシステム 東京統括部 東京営業部 部長
- 1974年に株式会社紀文(現・紀文食品)入社。名古屋や仙台などの物流部門におけるセンター長や部長職を経験。その後、紀文フレッシュシステムの品質管理部門を経て、2006年から現職。
- 神谷 智武 氏
- 紀紀文フレッシュシステム 東京統括部 東京営業部 営業企画課 課長
- 1993年に入社。仕分や営業業務を経て、2003年から東京営業部にて百貨店共配の営業を担当している。今回のプロジェクトには、導入部署リーダーとして参画した。
— 今日は、2008年12月にICタグを使った配送用機器管理システムを導入した紀文フレッシュシステムに話を聞きます。まず、業務内容を教えてください。
星川: 当社はもともと、紀文食品の物流部門が独立分社して誕生しました。主な業務は乳製品やケーキ、和菓子、総菜といったチルド食品の共同配送。異なる食品メーカーの商品をまとめて小売店に配送するサービスです。
神谷: 中でもこの東京営業部は、百貨店の地下食品売り場、いわゆる“デパ地下”への共同配送が主力です。
— 取り扱っているのは、やはり紀文食品の商品が中心なんですか。
星川: いいえ。東京営業部の場合、取扱高の95%は紀文以外のメーカーの商品なんですよ。取引先メーカーは現在、約580社です。
— 取扱品目数は?
神谷: デパ地下を想像してみてください。そこで販売されているチルド食品のほとんどを、当社が扱っていると考えていただいて結構です。
— なるほど。それでは、新システムについて伺っていきます。
星川: それを説明するには、当社が抱えている積年の悩みからお話ししなければなりません。配送中、カゴ台車がなくなってしまうんですよ。
— すみません、カゴ台車というと?
星川: 荷台の周りを金属製の編み枠で囲んだ台車のことです。車輪がついていて、搬送業務に使われます。
— ああ、スーパーや量販店などでよく見かけます。結構、大きいものですよね。それがなくなる?
星川: そうなんです。
配送用機器の流出で毎年450万円の損失
神谷: 当社が委託した配送業者の担当者は、商品を積んだカゴ台車をトラックから下ろして百貨店指定の場所に置きます。百貨店側はそれを店内に運んで商品を下ろし、空になったカゴ台車を元の場所に戻す。次の配送時に、配送担当者がそれらを回収するわけです。ところが、回収できないカゴ台車がある。
星川: 百貨店にはいろいろな業者が出入りします。当社のような共同配送業者や、百貨店に直接納品する食品メーカーなどです。そうした業者も、配送にはカゴ台車を使っています。
神谷: なかには、かなり古い台車を使っているところもあります。そんな古い台車を回収しに来た業者の目の前に、当社のきれいな台車がある。するとですね、ちょっと言いにくいですが…。
— ひょっとして、御社のカゴ台車を他の業者が持っていってしまう?
神谷: …まあ(苦笑)。代わりに、古いぼろぼろの台車が置いてありますけど。
星川: もちろんなくなってしまうものもありまして、毎年300台ほどのカゴ台車を買い足す必要があったんです。
村上: 当社が使用しているカゴ台車はざっくり言って1200台くらいです。
— それは結構な割合ですね。カゴ台車の値段は?
星川: 約1万5000円です。300台なので、年間450万円のコストがかかっていた。「荷物一個口を運んでいくら」という当社のビジネスにとっては、ばかにならない金額です。
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