[ザ・プロジェクト]
コード統一だけで終わらない─超巨大企業が推進するIT戦略
2016年3月24日(木)佃 均(ITジャーナリスト)
日立製作所が日本を代表するグローバル企業なのは言わずもがな。同社は足掛け10年でグローバルIT標準を確立してきた。執行役副社長兼CIO・岩田眞二郎氏が「一見すると地味だが、実態は本格的な攻めに備えたIT戦略」と話す実態に迫る。
「社内ではCIOとかCTrO(Chief Transformation Officer)、外部に向かっては“スマトラ”と言っているんですが…」。執行役副社長兼CIO兼CTrOの岩田眞二郎氏は席に着くなり、こう切り出した。スマトラとは2012年度にスタートした「Smart Transformation Project」のこと。「世界に勝てるコスト構造への変革」を旗印とした取り組みで、それと連動したIT施策として一般には、日立グループ全体のコード体系統一が知られている。CTrOとしてスマトラを主導する傍ら、CIOとしてIT戦略を統括する岩田氏。スマトラ(=コスト構造改革)の実行にはITが不可欠との思いで一連の施策を主導してきた。
同社IT統括本部が作成した「日立グループITパフォーマンスレポート」によると、現在登録されている企業コードは61万件、日立グループの「情報見える化対象」は10セグメント×5地域×5万顧客。整理・体系化してこの数字なので、その前はどこから手を付けていけばいいか、凡人なら呆然と立ちすくむほかなかったに違いない。レポートの冒頭には、「日立の変革をITでリードし、社会イノベーションの実現に貢献する」というIT部門のビジョンのもと、7つの行動指針が掲げられている。具体的には以下だ。
- Think Globally(グローバル視点で観て、触れて、考えよう)
- Create the Next(未来を描き、いままでにないものを生み出そう)
- Simplify & Optimize(ユーザー視点を大切に全体最適を実現しよう)
- Beyond Borders(多くの人と対話し、多様な視点をもとう)
- Act Speedily(スピード感を持って行動しよう)
- Win Trust(信頼を勝ち取ろう)
- Be One Team(チームで一つになろう)
それを実現するために統一した管理コードは、グループ共通の人財、企業、勘定科目、購買品類、事業部門や子会社単位の商品・製品、部品と多岐にわたる。「でもそれだけじゃないんですよ」と岩田氏は言葉に力を込めた。
出発点はグローバルなガバナンス
「背景にあったのは、コーポレート・ガバナンスに対するグローバルな要求だった」と言う。エンロン社(2001年12月)、ワールドコム社(2002年7月)と相次いだ粉飾決算を契機にSOX法が制定され、多くのグローバル企業に対応が迫られていた。「さて、と見回したとき、工場は工場、子会社は子会社で独自のITシステムを運用している。取引コードも違えば社員コードも違う。オール日立として部材の一括調達もできない。これはまずい、と」。工場をプロフィットセンターとするのは、創業以来、一貫してモノ作りを最も重視してきた社風の産物でもある。
日立製作所の中に別々の会社が存在する、ということですか? という問いに返ってきた答えは、「どれを取っても日立ということです」だった。見方によってそれは強みだが、相互に補完し合って協業・協働する時代にあっては機敏さ、柔軟さを欠くことになりかねない。部分最適を改めて全体最適を実現し、同時にコスト競争力を強化する。そのためには、ITの利活用が欠かせない。出発点はグローバルなコーポレート・ガバナンスの確立だったが、検討を重ねるうち、2005年の時点でその看板は「中長期を見据えたIT戦略」に変わっていた。
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●Next:ITシステム部門を戦略部門に変える─岩田氏の采配
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