[To-Be デジタルリーダー[ITリーダーとIT部門の明日の姿・役割]]
データをビジネス価値に変える基盤をどう作る? 何が大事?─LIXIL岩﨑氏×クックパッド中野氏(第2回:前編)
2019年9月11日(水)河原 潤(IT Leaders編集部)
あらゆる企業の経営課題となったデジタルトランスフォーメーション。その潮流は、ITの高度活用で経営を支えてきたIT部門自身にも「転換」を要求している。IT部門、それを率いるITリーダーがこの先どうあるべきで、何を担って経営に資するのか──。自社での実践を通じてこのテーマに対峙するクックパッドのITリーダー、中野 仁氏と各社キーパーソンの対談を通じて明らかにしてみたい。2回目の対談は、LIXIL IT部門 システムインフラ部 部長 岩﨑 磨氏との忌憚なきトークを、前中後編の3回にわたってお届けする。(構成と写真:河原 潤)
■LIXIL IT部門 システムインフラ部 部長 岩﨑 磨氏
■クックパッド コーポレートエンジニアリング部 部長 中野 仁氏
──まず、お2人のバックグラウンドのお話からお願いします。
岩﨑氏:いくつかのベンチャーでインフラストラクチャエンジニアとしてキャリアを積んできました。今はLIXILでITインフラを統括しています。
LIXILのCIOのビジョンの中に「変化し続ける」というキーワードがあります。製造業のITにおいてそれをどう持ち込んでいくのか、実際の設備など、年期を重ねている「モノ」が多くなってしまう製造業をどうモダナイズしていくのか。そういった部分に取り組んでいます。
中野氏:岩﨑さんとの対談ということで、今回のテーマの1つに「製造業のITのあり方」がありますね。私もオーディオテクニカというオーディオ機器メーカーの情報システム部門にいましたので製造業とWebサービスの両方を経験しています。
──製造業にやってきた岩﨑さんと、製造業からやってきた中野さん。お2人とも、事業会社のIT部門を見ている点では同じで。
岩﨑氏: 過去も含めて事業会社のIT部門は、これまで「IT部門によるITのためのIT」の要素が強くでているように感じます。それをいかに「ITによるカスタマーのためのIT」に変えていくか、という点を課題として見ています。
僕は過去に8社転職し、複数のIT部門・組織を見てきましたが、共通して見えてきたのは、IT部門が「自分たちのためのIT」を作りがちになってしまい、エンドユーザーの声を反映しきれていないということ。IT部門とエンドユーザーの距離を縮めていくことが大切です。
製造業にとっての「スピード」とは
岩﨑氏:どんなにいいツールがあっても、使ってもらえなかったら意味がないですよね。「こんなすごい武器を作ったから、さあどうぞ!」とIT部門が提示しても「そんなのイラネ」と言われてしまうのもよくある話。今は変化のスピードがとても速いです。ウォーターフォール開発で、要件定義から完成まで1年、などと言っている間に、会社も周りもすっかり変わってしまうこともあります。
中野氏:Web企業だったら、1年間で人が2~3割入れ代わっていてもおかしくない。人材の流動性が製造業などに比べると高い。システムも構築した人はもういないとか、普通にありますからね。
岩﨑氏:そのような状況で、いかに求められているものを提供していくかというと、スピードしかないと思います。品質は言うまでもなく重要ですが、それをも凌駕する価値としてスピードがある。そういうスピード感は、まず僕らIT部門が出す必要があると思いますし、その後、ユーザーを巻き込みながらさらに加速していく必要があります。そんなIT部門にしていきたい、というのが今すごく思っているところです。
中野氏:製造業界のスピードは、Web業界と比べて体感でどれくらい違うのでしょう。
岩﨑氏:Webから見て製造が遅いというのは、僕は少し違うと思っていて、プロセスの違いが大きくあると思います。
中野氏:フィジカル、モノを扱うからかな。あと、組織の大きさも違う。サプライチェーンを動かすには組織の規模が違う。
岩﨑氏:そうですよね。モノを作るプロセスの中で、元来、重厚長大な性質がある。そこに、当社の場合約7万5000人の社員がいて、1兆8000億という売上規模で回している。そんな環境の中でのシステムなので単純比較はできません。世界で100以上の工場が稼働していて、それぞれ中身が違っているので共通化できる部分とできない部分がある。そんな、フィジカルなバリエーションの多さもWeb業界との大きな違いですね。
モノがある中でのITなので、変化への俊敏な対応をとりにくいという難しさがあります。そのため、昔ながらのウォーターフォール開発で1つ1つ要件を突き詰めて進めざるをえなかった事情があります。もちろんウォーターフォール自体が悪いわけではないのですが。
一方、Webは基本的にデジタル、ソフトウェアの世界でできているので変化に対してもともと強いわけです。アジャイル開発アプローチを進めながら、そのギャップを埋めていくというのが、私にとっての大きなチャレンジになっています。
中野氏:モノ、物理がやっぱり強烈なボトルネックになるんですよね。
岩﨑氏:なりますね。製造ラインにおける大きなモノ、例えばアルミ溶解炉などは30~40年稼働する一方、フロント部分はどんどん変わっていく。どのようにそれらをつないでいくのか、がITの腕の見せ所ですね。
中野氏:メーカーの場合、生産技術と生産管理の上に経営が載っていて、たいてい海外進出している。組織とビジネスの大きさから事業部制をひいている会社も多い。しかも、それが国内/海外それぞれに同じような組織構造を別々に持っていたりする。だから同じ会社でも別部門はほとんど別会社と言えるぐらいの違いがあって。実際、歴史をたどっていくと本当に別会社だったことがあったりします。そんなメーカー時代は、ITの施策を1本通すのにもなかなか大変でした。
本社から子会社に伝えるのも大変です。資本関係や成り立ちがそれぞれ違ったりしますからコミュニケーションコストが異常に高い。それどころか部門や事業部レベルでもそう簡単にはいかない。横串を刺すのが難しい構造になりやすい。それでも、システム投資というのは、まとめるところはまとめないとスケールメリットが出ない。断言してもいいですが、統合を、両手を上げて歓迎する組織なんてないです。そこはどう統合していくか、あるいは、どこを統合しないのか。かなり難しい判断になると思いますが、その辺りはどうですか?
岩﨑氏:まさに今、僕らが大きなトライをしているところですね。グローエ(GROHE)というドイツを拠点とする水まわりブランドと、アメリカンスタンダード(American Standard)という米国の水まわりブランド、それとLIXIL。国をまたいでの連結決算やSOX対応など、グローバルガバナンスのあらゆる要素が入っています。
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