矢野経済研究所は2024年12月9日、日本国内のメタバース市場の概況と事業者の動向を発表した。2023年度の同市場規模は、前年度比35.3%増の1863億円だった。今後、XRデバイスの普及に加え、AIによるコンテンツ開発の効率化・高度化が進み、2028年度には市場規模が1兆8700億円に達すると予測している。
矢野経済研究所は、日本国内のメタバース市場の概況と事業者の動向を発表した。調査期間は2024年8月~10月。調査対象はメタバース関連の技術やサービスを提供する国内事業者である。調査方法として、同社の専門研究員による直接面談(オンライン含む)と文献調査を併用している。
2023年度の市場規模(システム基盤、コンテンツ・インフラ、XRデバイスの合算値)は、前年度比135.3%の1863億円と推計。2024年度は同147.6%の2750億円まで成長する見込みである。2023年度は、コロナ禍の影響でメタバース市場への新規参入企業が急増した2021年度~2022年度と比べ、一時的に成長率が減速した(図1)。
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矢野経済研究所によると、現状、国内のメタバース市場はPoC(概念実証)の段階を経て戦略的な投資に進む企業と、ROI(投資収益率)が向上せず事業から撤退する企業への2分化が進んでいるという。
「2023年度から2024年度にかけて、オンライン行政サービスとしてのメタバース役所や地域復興イベントなど、自治体におけるメタバースの導入が積極的に行われている。産業分野においては、教育や小売、エンターテインメントなどの領域でユースケースが普及しており、メタバースは特定分野で実用的な価値が認識される段階に進んでいる」(同社)。
同社は、自治体におけるメタバースの需要が拡大していることに注目すべきだと指摘。メタバースは空間と時間の制約を受けずに活動できるというメリットがあり、今後、地域格差を解消する手段としての活用が一層進むという。取り組みの具体例として以下を挙げている。
- 教育分野での取り組み
過疎地や離島といった教育資源が限られる地域では、メタバースを使った遠隔教育が導入されている。例えば、VRや3D空間を利用し、生徒が地理的な制約を超えて都市部の授業や専門的な教育プログラムに参加できる環境を提供している。これにより、物理的に参加が難しい地域でも、同等の教育を受ける機会が生まれる。そのほか、メタバースを活用した、不登校の子どもを支援するための自治体の取り組みが増えている - 医療サービスの拡充
医療資源が不足している地域では、メタバースを活用した遠隔診療や医療教育が試験的に行われている。医師や医療従事者が仮想空間で診療や相談を行うことで、過疎地の住民が都市部に移動せずに高度な医療サービスを受けることが可能になる。医療従事者のトレーニングにおいても、メタバース内で技術習得が行われることで、地域の医療レベルが向上することが期待される - 観光産業の振興
地域振興の一環として、地方の観光地をメタバース上に再現し、仮想観光を促進する事例も増えている。これにより、都市部に住む人々や外国人が、メタバース空間を通じて地方の観光地を仮想体験でき、地域の魅力を広く発信する機会が増加する。実際の訪問者を増やす前段階として、メタバース内でのプロモーション活動が重要な役割を果たしている
「現状、国内市場においては、グローバル市場に比べてメタバースが消費者にまだ十分浸透していない。特に地方や高齢者層においては、メタバースに対する認知度が依然として低い。現在、メタバース関連業界では、国内のメタバース市場を黎明期または幻滅期にある」(同社)。
このような状況下で、今後1~2年は爆発的な成長よりも継続的な投資やAIなどの周辺技術の研究開発が進み、法人向け市場からコンシューマー市場へと徐々に浸透していく形になるという。「5年程のスパンで見ると、特にXRデバイスと組み合わせることで市場が成長していく可能性がある」(同社)。
矢野経済研究所によると、2027年度以降、XRデバイスの進展に加えてAIによるコンテンツ開発の効率化・高度化が進み、コンシューマー市場の成長が加速するという。2028年度の国内メタバース市場規模を1兆8700億円と見積もっている。