日本ITCソリューション課長の佐々木と、香港支社副社長の森山、そして協業する三井商事の筒井ら3人は、香港での大型案件の競合相手である北京鳳凰が“安値攻勢”を仕掛けてくるとの情報から、トップに直接会うために北京へと飛んだ。だが、どう議論を切り出すかについては、具体的なアイデアは未だ浮かばない。面談の前日、北京空港には筒井の部下で、駐在の2年間に北京で相当の人脈を築いた女性社員、大神が迎えに来ていた。
「筒井さん、お久しぶりです。車を用意しておりますので、まずはホテルまで、みなさんをお送りいたします」。そう言って大神は、8人乗りのワゴンカーに、3人を案内した。飛行場から宿泊する中関村皇冠仮日酒店までは小一時間ほどで着くと説明してから、彼女は話を始めた(写真1)。
「筒井さん、例の会社ですが、調べてみました。うちの社員の家族に、その会社の社員がいました。その家族は、今回の入札には直接関与はしていないのですが、探りを入れてくれました。詳細には分からないのですが、大きな流れは把握できました」
そう言うと大神は、調査で得た情報を3人に説明した。それは、筒井が予想していた通りだった。彼らは、香港の「港鉄」と情報を通じていて、懸案の開発案件とは別に、もう1つの開発案件にも入札しようとしているのだろうということだ。もう1つの案件とは、運行の安全管理システムで、規模もほぼ同じらしい。入札期間を極端に短くし、彼らだけが入札できるように画策しているという。大神の説明が終わると、筒井は口元に笑みを浮かべてこう言った。
「大神さん、ご苦労さま。そんなことだろうと思っていました。この案件だけで安値攻勢を掛けることはあり得ないからです。もう1つ隠れた案件があったのですね。
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