「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システムの取り込みの重要性に鑑みて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見を共有し相互に支援しているコミュニティです。IT Leadersは、その趣旨に賛同し、オブザーバとして参加しています。同倶楽部のメンバーによるリレーコラムの転載許可をいただきました。順次、ご紹介していきます。今回は、積水化学工業の小笹 淳二 氏のオピニオンです。
日々、新しいITが登場する中、全く新たな顧客関係や新サービスのように従来は存在しなかった、考えられもしなかったことを実現するSoE(Systems of Engagement)と呼ばれるシステム群は、ワクワクする非常にエキサイティングな状況にある。本稿ではしかし、あえてレガシーシステムについて考察したい。
企業内の基幹業務や非定型業務を支えるSoR(Systems of Record)と呼ばれるシステム群、その中でも、いわゆるレガシーシステムは「いつ更新するのか?」「いつまで使い続けるのか?」と言われることが多い。すなわちメインフレームやオフコン、UNIX上で2000年以前に手作りされたシステム群のことだ。以下、各関係者からのレガシーシステムに対する批判とそれに対する私見を考えてみる。
再構築による売り上げが欲しいERPのベンダーやコンサルティング会社などの”新システム提案者”は、レガシーシステムを肯定的に評価することは少なく、経営層に対して「レガシーは駄目だ」と否定的な意見を言う。さらに経営層は、他社が最新のERPパッケージを導入したと聞き、欲しいレポートの入手に時間がかかる理由を自社のシステムが古いからだと不安を感じていたりする。一方、システムを実際に操作する”システム利用者”からは「文字だけのインタフェースは古臭い」とか「利用方法が解りにくく、操作性が悪い」といった不満の声が聞こえてくる。
情報システム部としても、レガシーシステムのプログラム仕様書などのドキュメントの不備や、担当技術者の高齢化による後継者確保が難しいなどの課題を抱える。特に古いプログラムのドキュメント不備は、システム運用への不安を煽り、きちんと運用を整備することが難しい。さらにレガシーシステムの記述言語が最新のプログラム言語と異なる設計思想であるため、若い人は学びたがらない。
そうしたレガシーシステム否定論に対して、確かに再構築することも1つの選択肢ではある。しかし業務の自動化などによる省人化効果は、レガシーシステム構築時にすでに実現されており、再構築による投資効果を期待できない。加えて現在や想定可能な将来において、レガシーシステムが、さほど問題にならないとすれば、否定論に応じるべく単純に再構築に踏み切るのは芸がなさ過ぎると筆者は考える。
というのも長期間・安定して利用されているレガシーシステムは枯れているので保守といってもたかが知れており、少数の企業内要員によって保守可能だ。プログラムを長期間変更せずに利用されてきた継続性、さらにはマルウェアなどに感染する危険が非常に低い点など、企業の事業活動を支える基盤として理想的だとも考えられる。
そうだとすればレガシーシステムを今後も長期間利用するための方策を、もう一度、CIO、ITリーダーを中心とする関係者は本気で議論するべきではないだろうか。レガシーシステムの長期利用方針を明確化できれば、若手への教育時におけるレガシー技術への不安低減やAPI連携などによるSoE領域システムとの連携、データウェアハウス活用によるレポート早期提供など、課題への解決策も見えてくるからである。
自らシステムを企画・構築・運用できる環境として、あるいは日々の業務オペレーションを継続的に支える基盤としてレガシーシステムを積極的に再評価し、全社での位置付けを明確化する。それによって企画に関わる工数をSoE領域に集中し、新技術を活用した新しいビジネスモデルと、それを支えるシステム構築へ積極的に関与できる環境を構築できる。そのために既存システム群をSoRとSoEに区分し、システムライフサイクルの視点からレガシーシステムを再評価していくことがITベンダーの意見に振り回されないために大切ではないかと思う。
何よりも今、社会や経済は明確には見えないが猛烈に変化しているように思う。企業が旧来の取引関係やビジネス習慣、社員と企業の関係などを今後も維持できるかは保証の限りではない。もし変革をしなければならない時期が遠からず到来するとすれば、その時こそレガシーシステムを再構築する好機である。
積水化学工業
経営管理部 情報システムグループ 理事
小笹 淳二
※CIO賢人倶楽部が2016年12月1日に掲載した内容を転載しています。
CIO賢人倶楽部について
大手企業のCIOが参加するコミュニティ。IT投資の考え方やCEOを初めとするステークホルダーとのコミュニケーションのあり方、情報システム戦略、ITスタッフの育成、ベンダーリレーションなどを本音ベースで議論している。
経営コンサルティング会社のKPMGコンサルティングが運営・事務局を務める。一部上場企業を中心とした300社以上の顧客を擁する同社は、グローバル経営管理、コストマネジメント、成長戦略、業務改革、ITマネジメントなど600件以上のプロジェクト実績を有している。
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