[オピニオン from CIO賢人倶楽部]

DXとは何者か?─フィルムビジネスを失って見えたもの

Office ItaBridge 代表 板橋祐一氏

2025年11月21日(金)CIO賢人倶楽部

CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システム/IT部門の役割となすべき課題解決に向けて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見共有を促し支援するユーザーコミュニティである。IT Leadersはその趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加している。本連載では、同倶楽部で発信しているメンバーのリレーコラムを転載してお届けしている。今回は、Office ItaBridge 代表 板橋祐一氏からのオピニオンである。

 読者の皆様はデジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉を、どのように理解・認識されているでしょうか。この点に関して、私には今も折に触れて思い出す“苦い記憶”というか、教訓があります。もしかすると、それは私だけではないかもしれません。以下、どういうことかを論じてみます。

デジタル化の波と、写真関連企業の成功体験

 DXが日本社会で広く知られるようになったのは周知のとおり、2018年の経産省レポートがきっかけです。しかし、DXの概念を初めて提唱したのは、米国の情報学者、エリック・ストルターマン(Erik Stolterman)氏で、2004年のことでした。当時、スウェーデン・ウメオ大学の教授だったストルターマン氏は、DXを単なるデジタル技術やツールの導入ではなく、「デジタル技術が人々の生活全体を変えること」と定義していました。

 2004年頃と言えば、私は富士フイルムに在籍しており、写真フィルムの世界はまさに“デジタルの津波”にのみ込まれようとしていました。長年、業界を支えてきた富士フイルムもコダックも、デジタル化の波が迫っていることは理解していました。しかしその波が「写真」という行為そのものの意味を変えるほどの大きな文化的転換になるとは実感できていなかったのです。

 かつて写真とは、特別な瞬間を残すために撮るものでした。人々はその1枚のためにカメラとフィルムを買い、現像を待つ時間にも価値を感じていたはずです。ところがデジタルカメラやケータイ、さらにスマートフォンが登場し、だれもが簡単に写真を撮り、SNSで共有するようになると、写真は“作品”から“日常の会話”へと姿を変えました。アップルやフェイスブックといった企業はこの変化をいち早く読み取り、写真を通じて人と人がつながるプラットフォームを作り上げていきました(図1)。

図1:写真のデジタルトランスフォーメーション
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 一方で、当時の私たち写真関連企業は、「写真を売る」という成功体験から抜け出せませんでした。プリクラやチェキのヒットで気づくチャンスはあったにもかかわらず、それらを一過性のオモチャと捉え、写真を介した体験をどう顧客価値に転換するか、マネタイズできるか、という発想に至れないままでした。DXを「デジタル化による効率化」と狭く理解してしまった結果、根底からユーザーの行動や文化が変わっていくことを見誤ってしまったのです。

●Next:新しい人と技術の関係性を見逃してはいけない

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