「CIO賢人倶楽部」は、企業における情報システム/IT部門の役割となすべき課題解決に向けて、CIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)同士の意見交換や知見共有を促し支援するユーザーコミュニティである。IT Leadersはその趣旨に賛同し、オブザーバーとして参加している。本連載では、同倶楽部で発信しているメンバーのリレーコラムを転載してお届けしている。今回は、TERRANET代表の寺嶋一郎氏のオピニオンである。
2019年12月、筆者が代表理事を務めるIIBA(International Institute of Business Analysis)日本支部はフォーラムを開催した。その基調講演に登壇いただいたのが、デジタルビジネス・イノベーションセンター(DBIC)共同創設者の西野弘氏(写真1)である。西野氏は2016年4月に、代表の横塚裕志氏とDBICを創設し、エグゼクティブ向けの講義やワークショップなどを通じて大企業にデジタルトランスフォーメーション(DX)をもたらすべく取り組んでおり、何十社もの企業の実情を知る立場にある。氏の話が大いに示唆に富んでいたので、ここで紹介したい。
講演の冒頭、西野氏はこう語った。「話題を集めた経産省のDXレポートは、“2025年の崖”という言葉で『日本企業はこのままだと崖から落ちる』と指摘した。しかし実際のところ、多くはすでに崖から落ちてしまっており、今は崖をどうよじ登るかこそが問題だ。それくらい根本的な認識が違っており、日本はヤバイ状態にある」。まさに正鵠を射た指摘だと思う。一体なぜ、崖の下に落ちているのに、それに気づかないのだろうか? 西野氏によれば、3つの課題があるという。
「すでに崖に落ちている」─DXの前に立ちはだかる課題
第1は日本の経営者をはじめとしたビジネスマンの危機感のなさやマインドセットの古さである。多くの経営層は危機感が薄く、21世紀に入っているのにまだマインドが20世紀のままだという。さすがに“ジャパン・アズ・ナンバーワン”だとか、“高品質の製品を安価に作る日本品質”だとか、そんな幻想を抱いている向きはほとんどいなくなり、口を開けばデジタルに言及する。が、それは表面的なことにすぎず。長期的ビジョンを持たないし、リスクをとって挑戦しようともしないのだ。
中堅どころの社員にいたっては経営層以上に危機感がなく、世界を知らない。サラリーマン生活にどっぷり浸かっていて自信がなく、勉強しようとしない。口癖はいつも「忙しいし、予算がない」で、働いていてちっとも楽しくないので表情は暗い。新しいビジネスモデルや数々の社会課題を鋭い感性で認知しようとせず、自分の頭で深く考えない。結果、多くの人が思考停止に陥っているという。例外は少なからずあるにせよ、当たらずといえども遠からずだろう。
第2に、顧客の視点から考える能力が決定的に欠けている。どんな企業も顧客志向を謳うものの、実際には自社=みずからの売り上げや利益が大事で、常に自社の製品やサービスを最優先する。顧客に合わせてそれらを変えるのは大変だから、顧客を変えようと活動する。「会社員」になりきっており 、「生活者としての自分」を見失っており、せっかく顧客視点を重視したデザイン思考(Design Thinking)を学んでも本質を理解できず、実践がままならないという。
第3は、既存事業の変革や新規事業の創出、つまりイノベーションを推進する能力がないことだ。事業をイノベーションした経験がない経営幹部は、若手から斬新な提案があっても本質を評価できずに、マネタイズの議論に持ち込む。よほどダメな事業ならともかく、たいていの場合はそれなりの利益を生んでいて先が読みやすい。斬新な提案はそうではないので、前に進めない。これに成果主義という名前の減点主義の評価制度が相まって、多くの取り組みはPoC(概念実証)症候群に陥ってしまい、公園のレゴ遊びのレベルを超えられないという。
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