[インタビュー]

「SAPの顧客はシステムの移行ではなく、経営の変革に時間を費やしている」─クリスチャン・クラインCEO

SAPの新リーダーが語る、コロナ禍の経営、DXの本質、ERPサポート延長、買収技術の統合

2020年11月24日(火)末岡 洋子(ITジャーナリスト)

「当社の顧客が取り組むデジタルトランスフォーメーション(DX)はテクノロジーやシステムのマイグレーションというより、経営、ビジネスそのものの変革に時間を費やしている」。これは、2020年4月より単独のCEOとして独SAPを率いるクリスチャン・クライン(Christian Klein)氏の言だ。クライン氏は先頃プレスのグループ取材に応じ、DXの本質やコロナ禍の影響、クラウドファーストで刷新した製品ポートフォリオ、SAP ERPのサポート延長を含む事業戦略について詳しく答えてくれた。

40歳の若き経営者、コロナ禍の中で単独CEOに

 クリスチャン・クライン氏(写真1)は1980年、ドイツ・バーデン=ヴュルテンベルク州出身の40歳。1999年、学生のときに独SAPに入社し、2018年、SAPの取締役会メンバーに当時最年少の37歳で就任、COO(最高執行責任者)として顧客のDXおよびSAP社内のDXを主導した(関連記事「SAP自身のトランスフォーメーション」あっての顧客DX支援─クリスチャン・クラインCOO)。2019年10月には共同CEOに就任。2020年4月にもう1人のCEO、ジェニファー・モーガン(Jennifer Morgan)氏が辞任したため、現在は単独のCEOとして同社を率いている。以下、グループ取材の内容を一問一答形式に構成してお届けする。

写真1:SAP CEOのクリスチャン・クライン氏。2018年にSAPの取締役会メンバーに当時最年少の37歳で就任した若きリーダーである(出典:独SAP)

──新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がSAPの経営にもたらした影響はどうか?

 2020年3月初めから本格的な感染拡大となったが、さまざまな学びがあった。SAPが最初にやったことは従業員へのコミュニケーションだ。不確実さが漂っており、どのように業務を継続するのか、安全対策をどうするか、事業へのインパクトや見通しについてしっかり対話し、企業として従業員のケアを示し、そのうえで実際にアクションをとった。(不安を持つ従業員に対して)感情面でのサポートで「Qualtrics」を活用している。

 対顧客のコミュニケーション、ケアも継続的に行った。世界に40万以上の顧客がおり、世界経済においてもインパクトのある企業ばかりだ。SAPを使ってミッションクリティカルなシステムを運用する世界中の顧客に対して、ビジネスを動かし続けるために全力で支援していくことを伝えてきた。幸いSAPのシステムには高い安定性があり、顧客の間で大きなシステム障害などは発生しなかった。

 サプライチェーンについての懸念は、どのCEOと話をしても出てくる。コロナ以前から、グローバル化後退のトレンドを感じていたが、サプライチェーンのローカライズや多様化が進みそうだ。顧客の間で、自国内での製造に切り替えることを検討している企業は多い。

顧客が取り組んでいるのは技術だけの移行ではない

──2020年2月に、SAP ERP 6.0を含む「SAP Business Suite 7」のサポート期限が再度延長されたことが発表された。移行がなかなか進まない顧客からの要望に応えたとアナウンスされている(関連記事:SAP、S/4HANAへの移行期限を2年延長し2027年末に、顧客の要望を受けて決定)。

 そう、これにより顧客は移行に必要な時間を得られる。SAPが顧客のクラウド移行のサポートにコミットしていることの表明と言える。(影響が及ぶ)IBM、オラクル、マイクロソフトなど、エンタープライスのデータベース管理システムベンダーにも延長は伝えており、同じようなタイムラインになるように交渉しているところだ。

写真2:プレスのグループ取材に応じるクライン氏

 S/4HANAの顧客は現在1万4000社以上に達し、特にクラウドでの稼働に大きな関心をもらっている(関連記事「S/4HANA新規ユーザーの6割がクラウド、今後も移行を促す」─SAPジャパン次期社長の鈴木洋史氏)。

 「なぜ、(SAP ERPからS/4HANAへの)移行がなかなか進まないのか」とよく聞かれるが、SAPの顧客は単なる技術のマイグレーションとして、クラウドに移行しているのではない。技術のマイグレーションであれば、すばらしいツールがたくさんあり、豊富な知識を持つコンサルタントもたくさんいる。重要なのは、顧客はDXに向けて、SAPの利用を通してビジネス変革を行っているということだ。サプライチェーン、物流、財務などを変革するのはどの企業も簡単なことではない。また、従業員の働き方やワークスタイルを変えることにもつながる。

 要は、ソフトウェアだけの問題ではないということ。だから時間がかかっている。顧客には、デジタル時代に自社は何を競争優位とするのかを考えて自社の事業を再考するようにと呼びかけている。簡単なことではない。

●Next:顧客のDXを支えるために刷新されたSAPポートフォリオの中身

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「SAPの顧客はシステムの移行ではなく、経営の変革に時間を費やしている」─クリスチャン・クラインCEO「当社の顧客が取り組むデジタルトランスフォーメーション(DX)はテクノロジーやシステムのマイグレーションというより、経営、ビジネスそのものの変革に時間を費やしている」。これは、2020年4月より単独のCEOとして独SAPを率いるクリスチャン・クライン(Christian Klein)氏の言だ。クライン氏は先頃プレスのグループ取材に応じ、DXの本質やコロナ禍の影響、クラウドファーストで刷新した製品ポートフォリオ、SAP ERPのサポート延長を含む事業戦略について詳しく答えてくれた。

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