[ザ・プロジェクト]
IHIが挑んだ「プロセスマイニングによる業務可視化」の実際
2021年8月4日(水)齋藤 公二(インサイト合同会社 代表)
グローバルに事業を展開する総合重工業グループのIHI。同社は中期経営計画「プロジェクトChange」の中で急激な環境変化に即した事業変革の本格化を掲げ、グループのデジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みを加速させている。そんな同社が執った具体的なアクションの1つが、2019年度から推進するプロセスマイニングを活用した業務改革である。2021年6月29日開催の「プロセスマイニング コンファレンス 2021 LIVE」(主催:インプレス IT Leaders)に、IHI 高度情報マネジメント統括本部 ICT基盤システム部 共通データマネジメントグループ 主幹の高田謙一氏が登壇。プロセスマイニング導入の経緯と得られた効果、DXやデータマネジメントにおけるプロセスマイニングの位置づけなどを紹介した。
業務改革の始点は「業務のルール・プロセス・量・質の可視化」にある
「技術をもって社会の発展に貢献する」「人材こそが最大かつ唯一の財産である」という経営理念を掲げ、日本を代表する総合重工業グループとして、グローバルでビジネスを展開するIHI。連結で売上高1兆3865億円、従業員数2万8964名の同社は、2020年度からの3ヵ年中期経営計画「プロジェクトChange」の中で、コロナ禍以降の急激な環境変化に即した事業変革の本格化を掲げ、グループのデジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた取り組みを加速させている。
具体的なアクションとして、コスト構造の強化や事業構造の改革を目指して、データドリブンマネジメントに向けたデータマネジメント基盤の強化などに注力。プロセスマイニングについては2019年度から業務改革の一環として取り組みをスタートさせている。プロセスマイニングのプロジェクトを牽引してきた高田謙一氏(写真1)は、IHIにおける業務改革のステップについてこう話す(図1)。
「業務改革とは、経営目標を達成すべく経営資源の最適化を図る活動です。経営資源の最適化を図るべく、業務のルールやプロセス、量、品質などを再設計・再構築するためには、それらを可視化することが始点となります。見えないものは改革できないからです」
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調達プロセスに適用してプロセスマイニングの効果を確認
そこで取り組んだのがプロセスマイニングである。IHIにおけるプロセスマイニングの位置づけは、業務システムのログや履歴データを用いて、業務プロセスを可視化する技術・ツールとなる。その役割や効果を高田氏はこう説明する。
「業務プロセスの流れ、案件数量、処理時間、業務担当者の関係といった業務実態が可視化されることで、ムダ、ボトルネック、イレギュラーやルール外処理など現状の問題点が抽出できるようになり、事実に基づいた業務プロセスの見直しにつながります。また、複数部門、複数プロセスで構成される複雑な業務についても、適切なログを取得できれば可視化できます。こうして複数の部門にまたがる業務プロセス全体を可視化していくことで、部門の個別最適ではなく、業務プロセス全体での最適化が図れるのです」
IHIがプロセスマイニングツールに選定したのは、ハートコアが提供する「myInvenio(マイインヴェニオ)」である。イタリアのCognitive Technologyが開発した同ツールの導入・構築を、ノウハウを有するハートコアの支援の下で進めていった。
まず、2019年度上期に、社内の独自開発システムとSaaSを対象に試行検証を行い、動作確認と機能確認を実施した。その際、情報システム子会社との協働によりプロセスマイニングに関するノウハウを蓄積していった。同年度下期には、ある事業部門の購買プロセスを対象に業務改善への有効性を確認した。これらを経て、2020年度から別の事業部門の設計・調達・製造業務、研究開発部門における調達関連業務において取り組みを本格化させたという流れとなる。また、同年度からはプロセスマイニングと合わせて、業務をPCの操作レベルまで可視化するタスクマイニングツールの検証にも着手した(図2)。
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「2019年度下期に適用したプロセスマイニングの対象としているのは、一般購買システムを用いて行う調達プロセスです。具体的には、直材を除く一般購入品(事務用消耗品、工場操業用材、板・管・棒材料など)、設備、各種業務委託に関する要求から見積り取得、価格決定、発注、納品、検査、検収に至る業務プロセスとなります」(高田氏)
業務実態から課題を発見し、改善アクションにつなげる
取り組みの成果の1つとして、高田氏は、ある部門における業務プロセスの実態を可視化した例を紹介した。図3にあるように、プロセスマイニングの結果、部門Aはすべての案件を7日以内に処理しているが、部門Bはすべての案件処理に21日を要していることが判明。ボトルネックがどこにあるかの分析を行い、改善のアクションを導き出している。
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次に高田氏は、業務の季節性や担当者別の業務状況もグラフで可視化できたことを挙げる。リードタイムと処理件数をグラフ化し、ある業務が年度末に向けて徐々に要求から検収までのリードタイムが減少していることを確認。また、処理待ち時間と処理待ち件数をグラフ化することで、ある担当者が長期休暇の間は業務が止まり、処理待ちの時間が増えるといったことを確認できた(図4)。
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高田氏によると、担当者別の業務負荷の可視化まで図ることができたという。「ある時期に担当業務をローテーションしたところ、それに伴って担当者の負担も移ることが確認できました。ある担当者はいくつかの業務を担当していましたが、特定の業務についてボリュームが多く、頻度が高いこともわかりました。こうして、感覚的にわかっていたことをプロセスマイニングで定量的なデータとして可視化を図れています」(同氏)
●Next:IHIが得たそのほかのプロセスマイニング効果と、見えてきた課題は?
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