[架け橋 by CIO Lounge]

製造業復活の処方薬としての「CPS」を考える

CIO Lounge 理事/ELEKS Japan 取締役社長 田井 昭氏

2022年9月30日(金)CIO Lounge

日本を代表する百戦錬磨のCIO/ITリーダー達が、一線を退いてもなお経営とITのあるべき姿に思いを馳せ、現役の経営陣や情報システム部門の悩み事を聞き、ディスカッションし、アドバイスを贈る──「CIO Lounge」はそんな腕利きの諸氏が集まるコミュニティである。本連載では、「企業の経営者とCIO/情報システム部門の架け橋」、そして「ユーザー企業とベンダー企業の架け橋」となる知見・助言をリレーコラム形式でお届けする。今回は、CIO Lounge 理事/ELEKS Japan 取締役社長 田井 昭氏からのメッセージである。

 私が社会人になったのは1981年。同年代の方は記憶されていると思いますが、1980年代は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」(写真1)と言われ、日本の製造業が世界を席巻していた時代です。メーカーに入社後、私は開発部門に配属され、まさに世界初の製品開発に取り組みました。将来もこのまま進化し続けることにまったく疑いを持ちませんでした。IMD世界競争力ランキングでも堂々の1位でした──。

写真1:米国の社会学者エズラ・ヴォーゲル氏による1979年の著書『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(原題:"Japan as Number One: Lessons for America"、TBSブリタニカ刊)。国内でベストセラーとなり、ハイテク景気からバブル景気に向かう時期の日本経済を象徴する言葉となった

 ──ところが1990年代の半ばから成長が鈍化し、2022年の同ランキングでは何と日本は過去最低の34位となっています(関連記事IMD世界競争力ランキング2022、デンマークが北欧初の首位、日本は3つ下げて34位に)。

 振り返ってみれば、1998年にWindows 98とInternet Explorerが登場しました。その頃の日本におけるインターネット普及率は14%程度でしたが、2000年には37%を超え、当時の森喜朗首相が「すべての国民が情報通信技術を活用できる日本型IT社会を実現する」との構想のもと、5年以内に世界最先端のIT国家となることを目指す「e-Japan構想」を発表しました。この頃は日本企業もまだ元気だった気がします。

 今では巨人になった米アマゾンが日本でサービスを開始したのも2000年です。米国を中心にインターネットバブルは2000年3月に最高潮に達し、デジタル化の潮流は勢いを増していきました。私見ですが、このネットバブルやそれが崩壊した段階では、欧米も日本もデジタル導入には大差がなかったと思います。差がついた転機は、数年後の2008年に起きたリーマンショックにあったのではないでしょうか。

 多くの欧米企業は生き残りをかけてデジタル投資のアクセルを踏み、目的は同じですが日本企業はコスト削減に進み、それが後の成長率に影響をもたらしたように思えるのです。最近でも新型コロナウイルス感染症によるパンデミックを受けて、欧米やアジアではIT投資を加速させています。これに対し日本企業の60%はIT投資削減だそうです。このままでは世界競争力34位どころか、さらに後退する可能性があるのではないでしょうか?

日本の製造業はCPSに舵を切るべきだ

 とはいえ、巻き返しのチャンスがないわけではありません。私は有力な処方箋の1つとしてCPS(Cyber-Physical System、図1)があると考えます。IT化やデジタル化だけでは、自ずとできることに限界があります。これに対し、IoTの進化に伴って、現実世界(アナログ)と仮想世界(デジタル)を連携させ、融合させていくかを本気で考えられるようになってきました。この流れにあるのがCPSであり、別の表現をすればデジタルツインです。

図1:CPSの概念図(出典:JEITA 電子情報技術産業協会)
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●Next:CPSの重要ファクターはデジタルだけではない

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