[架け橋 by CIO Lounge]

ITやデジタル部門に欠かせない「両利きのITマネジメント」とは?

JFEスチール 専務執行役員DX戦略本部長 サイバーセキュリティ統括部担当 新田 哲氏

2025年12月23日(火)CIO Lounge

日本を代表する百戦錬磨のCIO/ITリーダー達が、一線を退いてもなお経営とITのあるべき姿に思いを馳せ、現役の経営陣や情報システム部門の悩み事を聞き、ディスカッションし、アドバイスを贈る──「CIO Lounge」はそんな腕利きの諸氏が集まるコミュニティである。本連載では、「企業の経営者とCIO/情報システム部門の架け橋」、そして「ユーザー企業とベンダー企業の架け橋」となる知見・助言をリレーコラム形式でお届けする。今回は、JFEスチール 専務執行役員DX戦略本部長 サイバーセキュリティ統括部担当でCIO Lounge正会員メンバーの新田 哲氏からのメッセージである。

IT・デジタル部門を「進化型」「探索型」視点で捉え直す

 組織経営学者であるチャールズ A. オライリー氏(米スタンフォード大学経営大学院教授)とマイケル L. タッシュマン氏(米ハーバード・ビジネススクール教授)が「両利きの経営(Ambidexterity)」を提唱してから10年近くが経ちました。両利きの経営とは既存事業を維持・強化しながら(深化)、新規事業を起こし(探索)、企業を成長させていかないと成熟企業は衰退するという考えです。

 アマゾン(Amazon)の成長により多くの米国の成熟企業が衰退したことは、よく知られています。また写真フィルム事業の“深化”に固執して倒産したコダックに対して、フィルム事業の収益が出ている間にフィルム技術を応用した界面化学の「探索」に挑戦して事業転換を進めた富士フイルムは、両利きの経営の重要性を物語るよい事例だと思います(関連記事DXとは何者か?─フィルムビジネスを失って見えたもの)。

 少し視点は異なりますが、私はITやデジタル部門の業務にも大きく2つのタイプが存在すると思います。1つは、定められた業務を計画に従って、効率よく実行するもの。実行の中では日々の改善も行います。比較的短期的な成果を最大化する業務です。IT業務でいうと、日々の維持管理や運用サービス、機器の更新業務などがこれにあたります。ここではオライリー氏の定義を借りて「深化型業務」と呼びます。

 もう1つは新たな課題を設定して、解決の方向を見出し、将来に向けた抜本的な解決策を実行する業務です。大きな業務改革プロジェクトやITプラットフォームの刷新、IT・デジタル組織の改編などです。このタイプの業務は、長期的な価値、課題に対応した業務であり、「探索型業務」と呼ぶことにします。

 IT・デジタル部門の業務には比率は異なるにせよ、必ず、深化型業務と探索型業務が存在し、これらに対して異なるマネジメントが必要と考えます。

●Next:「深化型業務」「探索型業務」に必要なマネジメント、JFEスチールにおける実践

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