企業ITに携わるプロフェッショナル達に、自分の書棚から特に印象に残っている3冊を選んでもらう「私の本棚」。今回は、日本郵船 情報企画グループ グループ長の江黒孝夫氏に聞いた。
会社勤めでは、組織の論理と自分の思いがぶつかることがあります。そんなとき、ともすると日和りそうになってしまう自分を引き戻してくれる本が、司馬遼太郎の『峠』です。主人公は、越後長岡藩の家老である河井継之助。幕末の激動のなか、自分が信ずるところを愚直に追い求める継之助の姿が、自分の中の“芯”を呼び覚ましてくれるというのかな。「男とは何か」を考えさせられる1冊です。
峠を愛読するようになったのは、大学のゼミで先輩に薦められたのがきっかけでした。そう、学生時代と言えばジャズに明け暮れましたね。ジャズにもいろいろ分野がありますが、私が所属したのはビッグバンドのジャズサークル。楽器はトランペットです。そこそこ名門と言われるサークルだったので、厳しかったですよ。毎日、朝から晩まで練習。たまに回ってくるアルバイトも、イベントやパーティでの演奏でした。
でも、あれはおいしかったな。結構なバイト料が入るんですよ。アイドル歌手のバックで演奏するなんてこともありました。
3年生のとき、「学生ビッグバンドの甲子園」といわれる大会で優勝しましてね。米国のジャズフェスティバルに参加する栄誉にあずかりました。そのフェスティバルで、今でも忘れられない光景があります。舞台裏で、スタン・ゲッツとハンク・ジョーンズが卓球に興じていたんです。ジャズ好きなら知らぬ者はいない巨匠2人が、卓球対決(笑)。びっくりしました。
日本郵船に入社したのは、国際的な仕事がしたかったから。実際、システム部門に配属されるまではロンドンでの傭船調達や、中東からの原油輸送などに従事しました。そうそう、穀物担当だった時期に“平成の米騒動”が起きましてね。あのときは対応に追われて、50時間以上も無睡眠でした。
そういう生活のなか、「世界を相手にしている」という自負がどこかにあった。でも、「ネクスト・マーケット」を読んで、そんな“グローバル気取り”を恥じ入りました。
現在、1日2ドル未満で生活する人は世界に40億人以上います。そうした貧困層を救済の対象としてではなく、顧客としてとらえて市場を拡大しよう。それがこの本の骨子です。「どうやって?」と思いますよね。そこで同書では、成功事例を豊富に紹介しています。例えば、メキシコのセメント業者は、貧困層向けに貯蓄プログラムや信用販売、施工指導などをセットにして提供。きちんと利益を出しています。搾取ではなく施しでもない、Win-Winの関係を作れている。世界には、すごいことを考えつく人がいるものです。
3年ほど前から、システム開発からビジネス支援へとIT部門の役割転換を進めています。そのなかで重要なテーマが、データ活用です。当社の輸送品目は多岐にわたりますが、品目ごとの取扱量には連関があるはず。例えば「この原料が動くと、半年後にこの最終コンテナ品が動き出す」といった具合にね。そうした連関を見出すシステムを、業務プロセスに埋め込みたい。「ビジネス・インテリジェンス」を参考に、いろいろ構想を練っています。
司馬遼太郎著
ISBN:978-4101152400
新潮社
700円
北岡 元著
ISBN:978-4492556313
東洋経済新報社
1890円
- 江黒 孝夫 えぐろ・たかお
- 日本郵船 情報企画グループ グループ長
- 1983年4月に日本郵船入社。経理部門を皮切りに、傭船調達や原油輸送などに従事。2002年に豪州法人への出向から帰国し、IT戦略グループに配属。07年6月からグループ長を務めるほか、システム子会社であるNYK Business Systemsの執行役員も兼務している。
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