エンドユーザーコンピューティング(EUC)によって、24にまで増えてしまったコールセンターシステム。24時間365日体制の窓口もあり、失敗が許されない新旧システムの切り替え作業。リコーグループの運用保守サービス会社であるリコーテクノシステムズが、大規模なコールセンター再構築プロジェクトに挑んだ。聞き手は本誌副編集長・川上 潤司 Photo:陶山 勉
- 野澤浩一氏
- リコーテクノシステムズ 執行役員 ITサービス事業統括本部 副本部長 統括センター長 IT/S推進センター長
- 1983年入社。オフコンのアプリケーションSEとして販売や物流、医療などのプロジェクトを担当。リコーのソフト開発標準策定にも従事した。SE部門の事業部長を経て2004年に東北支社長に就任。その後、ITサービス企画や販売促進部門、IT/S部門の責任者を歴任し、2010年から現職
- 谷口俊哉氏
- リコーテクノシステムズ ITサービス事業統括本部 IT/S推進センター 副センター長
- 1980年入社。オフコンのアプリケーションSEのほか、SE教育やパッケージ開発に従事。複写機の遠隔診断システムや特許画像検索システムの開発のほか、ドキュメントソリューションやプリンティングソリューションの立ち上げと販売促進などを手掛けてきた。2010年から現職
- 木口喜明氏
- リコーテクノシステムズ ITサービス事業統括本部 IT/S推進センター 業務改革推進室 業務改革2グループ マネージャー
- 1982年にリコーエレクトロニクスサービスに入社し、カスタマーエンジニア(CE)としてオフコンやFAXの保守業務に従事。1987年10月に人材開発部署に異動し、CEの教育を担当。2004年からはITサービス商品の企画やフィールドサポート戦略の立案、CEの技術サポートを手掛け、2009年10月から現職
─ コールセンターの大規模な統合プロジェクトが一段落したそうですね。いろいろと工夫や苦労があったかと思いますが、それをお聞きする前にまずは業務内容を教えてください。
野澤:当社はリコーグループにおける運用保守サービス会社です。全国389拠点に4000人のCE(カスタマーエンジニア)を抱え、コピー機やプリンタといったリコー製品だけでなく、パソコンやサーバーの設置・保守、ネットワーク構築や運用支援などのサービス事業を展開しています。
─ リコーというとコピーやプリンタの印象が強いですが、かつてはコンピュータも作っていましたね。
野澤:ええ、「RICOM」というオフコンを作っていました。当時はシステム系の保守サービス会社が別にありましたが、それを一体化して現在の形になっています。最近伸びているのは「NETBegin BBパック」と呼ぶシステム系のサービスで、現在契約数が6万社を超え、今年度末には10万社まで増える予定です。
─ 残り6カ月弱で4万社も!そこまでニーズがあるんですか?
野澤:おかげさまでヒットしています。NETBegin BBパックは、「インターネットに接続できない」などパソコンやネット環境の困りごとをオンサイトで解決するサービスですが、これが意外とありそうでなかったのですね。そのため従業員数30人前後の企業を中心に、新規契約数が約5000社に達する月もあります。
EUCの定着が、結果的にセンターの乱立を招く
─ コピー機やシステムの保守サポートを生業とする貴社なら、かなり昔からコールセンターの環境が整っていたはずですが、この時期に統合しようという話になった理由は?
谷口:実は今までは新商品をリリースする度にコールセンター“もどき”を作っていたのです。これはこれで商品ごとに最適化してあったのですが、個別に組織や場所を設けるものだから、あちこちでコストが発生していた。
野澤:それに、最近は年間5〜6種類の新サービスを出していますので、その都度電話番号を決めてコールセンターを用意するやり方は、もう限界でした。
─ ところで、コールセンターはいくつあったのですか?
谷口:受付窓口数でいうと24個です。
─ そんなに!(笑)。
谷口:そうなんです。ご存じかもしれませんが、リコーグループはグループウェア「ノーツ」を使ったエンドユーザーコンピューティング(EUC)が定着しているので、それぞれの商品サポート担当がシステムを作って運用していました。
─ 超が付くような得意客は、24もの番号を使い分ける必要がある?
谷口:規模別などで窓口を設けているケースもあったので、それはありませんが、各センターが連携せずに動いていたのは事実です。CEも大変だったと思います。なにせ、いろいろなコールセンターから「あっちに行け」「こっちに行け」と指示が入るわけですから。
野澤:おっしゃるように複数のサービスを契約いただいているお客様もいらっしゃる。CS(顧客満足度)を高めていくには、コールセンターを統合してシームレスな対応をすることが欠かせません。さらに、CEを役割と機能ごとに再配置してサポートの品質を上げる必要もある。そうした理由でプロジェクトを立ち上げました。2008年4月のことです。
実情を正直に打ち明け、他社コールセンターを見学
─ プロジェクトがスタートしてから、まずは何を。
谷口:現状分析をした後、9月までに業務とシステムの大まかな要件をまとめました。お客様からの電話を受ける第1列。その第1列と現場に出ているCEを技術的な観点からサポートする第2列。CEの手配と問い合わせ対応の進ちょくを管理する第3列という構成を基本とする。その3列体制の業務を支えるシステムを新規構築するという内容です。
野澤:問い合わせ内容や故障原因をCEの携帯電話にメール送信する仕組みは、コピー機など向けのコールセンターで使っていたものを流用することにしました。
─ 従来の体制とは丸っきり違う印象がありますが、どこかの企業をベンチマークしたのでしょうか。
谷口:私自身、コールセンター構築の経験があるわけではないので、当社の取引先であるシステムインテグレータやITベンダーに正直に実情を打ち明けて、コールセンターを見学させてもらうなど勉強しました。
1200点満点の評価方式でベンダーを選定
─ 要件が固まれば、あとはRFPをベンダーに出して一気呵成に開発するだけですね。
谷口:そう言いたいところですが、ベンダー選定のとき最初は意見がまとまらず…。
─ といいますと?
谷口:2008年11月中旬にシステムインテグレータやコールセンターのBPOサービス会社、ERPベンダーなど5社に集まってもらい説明会を実施。11月末に提案をいただき、12月初旬にプレゼンテーションしてもらいました。その内容を当社だけでなく、新システムを一部で利用するリコーのグループ会社2社にも採点してもらい、結果を取りまとめたところ、評価が割れてしまったのです。そこで3社から改めて提案を聞こうということになり、12月中旬に2次提案をいただきました。
─ 採点というのは、何か共通の基準を設けて100点満点で評価したのですか。
谷口:要求理解度が80点、提案適合度が580点、費用項目が300点、導入実績が240点の合計1200点満点です。
─ あれ?費用項目の重みをそれほど大きくしなかったのですね。
谷口:提案適合度、要するに要求を実現できるかを最重要視しました。ただし、採点は相対評価。例えば、費用項目なら極端な話、300点と0点の差がつくので、提案適合度の採点が高くても、それだけで決まることはありません。
─ 最高得点をたたき出したのは?
野澤:最後はNECでした。IFSジャパンのコールセンターモジュールを使うという内容です。
─ 評価するうえで他社と特に違った点があるとすると、何でしょう。
谷口:大きかったのは、当社で細かく指定していたユーザーインタフェースです。2次提案の際、他社はパッケージをそのまま説明したという印象でしたが、NECは社内で使っているテンプレートで開発した画面のモックアップを見せてくれました。
野澤:でも、トップ3の評価は本当に僅差だったんですよ。ただ、きめ細かさと対応の速さで、NECが頭1つ抜き出ている感じでしたね。
谷口:NECのテンプレートは設計フェーズでも役立ちました。入電時や検索時などのシーンごとに画面のモックアップを作りながらユーザーレビューをする作業を繰り返したところ、2〜3カ月後には「明日から使いたい」という声が上がるほどにまで仕上がった。「中身はこれから開発します」と言うと、「え〜完成してないの?」と。
─ 設計の完成度が高ければ、開発は比較的スムーズだったでしょう。
野澤:ええ。2009年7月にスタートした開発フェーズはおおよそ順調に進み、2010年1月に当初の計画より3カ月前倒してカットオーバーしました。
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