3年前から、ある勉強会に参加しています。毎月3〜4冊の課題図書を読み、バーで一杯やりながら議論するという集まりです。会合にはあまり参加できていませんが、課題図書はできる限り読むようにしています。最近は、「日本人の誇り」を読みました。
明治以降の歴史を見直し、太平洋戦争はなぜ起きたのかを問い直す良書です。日本が戦争に突入していく過程や、戦後に米国がとった対日戦略をつぶさに描いています。日本は最後まで戦争を回避する道を模索していた。ところが、米国は在米資産の凍結や石油の輸出禁止といった策により、日本から開戦以外の選択肢を奪った。著者は、読み手にそんな事実を突きつけます。
びっくりしたのは、「罪意識扶植計画」に関する記述です。GHQは戦後、日本の学校教育を巧みに操作して「戦時中、大量虐殺を行った」「侵略戦争だった」という意識を植え付けたというんですよ。その結果、日本人は愛国心を持てなくなったと。思い起こせば、2010年に起きた尖閣諸島沖の衝突事件。政府はなぜ、「土下座外交」と揶揄される対応をとったのか。不思議でならなかった。同書を読んで、そんな疑問に一定の解を得られた気がします。
もちろん、日本側からの言い分だけでは偏りがあるかもしれません。そこで、太平洋戦争については、GHQの職員だった米国人女性が書いた「アメリカの鏡・日本」もおすすめします。こちらもやはり、経済封鎖を受けた日本が自衛のための戦争を余儀なくされたという見解を示しています。実はこの本、1949年の出版当時、ダグラス・マッカーサーが日本での翻訳出版を禁じたといういわくつきです。
日米両サイドからの言論を読み合わせると、「このへんが真実だろう」というところが見えてきます。残念なことに、学校ではこうした日本の近代史をきちんと教えないんですよね。「真珠湾攻撃」「東京裁判」など、断片的な事象を列挙するだけ。近代日本の外交は、ペリー来航からの連続で考えなければ正しく理解できないはずなのに、そこがなおざりにされている。もっと長いスパンで、歴史を流れとして見直さなければ、「日本人だ」と堂々と胸を張れるようになれないんじゃないかな。そんなふうに感じています。
最後にもう1冊。「できる社長のお金の使い方」です。著者の金児昭氏は、信越化学工業で経理財務担当役員を務めた人物。現在は、同社の顧問です。長年経理に携わった身として、「日本一の金庫番」と呼ばれる同氏の名前はよく耳にしていましたが、1年半前にある会合で初めてお会いしました。
金児氏は本書で、1円でも利益を出すこと、1円であっても無駄に使わないことにこだわった経営を説きます。バブル時代、多くの企業が不動産投資など本業以外の財テクに走りました。しかし、金児氏は決して手を出さなかった。為替リスクを回避するために輸出企業の多くが実施する為替予約も、一切行わなかった。会社に1円でも損失を与える可能性があるからです。その首尾一貫した姿勢に敬服しました。「経理・財務は事業部門の僕(しもべ)である」という言葉も印象的ですね。経理部門は利益を生まないのだから、裏方に徹して現場をサポートすべき。そんなメッセージに、深くうなづきました。
アメリカの鏡・日本(新版)
ヘレン・ミアーズ 著、 伊藤延司 訳
ISBN:978-4046519689
角川学芸出版
2200円
できる社長のお金の使い方
金児昭 著
ISBN:978-4781606170
イースト・プレス
1000円
- 鈴木 均 氏
- オリンパス 情報セキュリティ統括室長
- 1981年にオリンパス入社。経理部門に20年以上在籍し、財務会計を担当。SAPを用いた会計システム刷新プロジェクトや、全社構造改革プロジェクトのマネジャーを務めた。2004年7月から、映像関連子会社におけるグローバル事業管理を担当。2008年7月、情報セキュリティ統括室長に就任した
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