[シリコンバレー最前線]

先達にリタイヤの文字はない、成功しても尽きぬベンチャー精神

2012年3月22日(木)山谷 正己(米Just Skill 社長)

シリコンバレーのベンチャー精神は衰えることを知らない。かつて一世を風靡した起業家たちは、今もなお新たなビジネスの模索を続けている。後進の育成や社会貢献にも余念がない。

SNS大手のFacebookは2月1日、米証券取引委員会に新規株式公開(IPO)を申請した。資金調達額は50億ドルを予定しているという。ハーバード大学在学中に同社を設立したマーク・ザッカーバーグ氏は、今年28歳という若さながら大きな成功を収めつつあり、世界中から注目が集まっている。

しかし、若くして成功したのはなにも同氏が初めてではない。AppleやSun Microsystems(現Oracle傘下)など、名だたるIT企業をゼロから創業したのは、いずれも20歳代の若者たちだった。彼らはその後、どういう人生を歩んでいるのだろうか。今回はそれを探ってみよう。

Apple Apple
1976年、スティーブ・ジョブズ氏と
スティーブ・ウォズニアック氏が創業

ジョブズ氏は1985年、ペプシコーラで有名なPepsicoから迎え入れたジョン・スカリー社長との対立から退社。NeXTを創立して高性能ワークステーションの開発に力を注いだ。1996年、Appleが同社を買収したのを機に、アドバイザーとしてAppleに復帰。暫定CEOを経て2000年、正式にCEOとなった。それ以降、iMacやiPod、iPhone、iPadといった従来のパラダイムを覆すヒット商品を世に送り出したのは周知の通りだ。2004年にすい臓癌を発病。闘病を続けながら同社を指揮したが、2011年10月に56年の生涯を閉じた。

ウォズニアック氏は1985年に病気療養のためAppleを離れた後、1987年にCL9を設立してプログラマブル汎用リモコン装置を開発。2001年、元Appleの役員仲間とともにWheels of Zeusを共同設立し、GPSを用いた追跡システムを開発した。2006年には、企業買収を目的とするAcquicor Technologies(現Jazz Technologies)を設立した。近年は、ビジネスのかたわら地元の学校・学生への慈善活動にも力を入れている。

Microsystems Sun Microsystems
1982年にアンディ・ベクトルシャイム氏ら4人が創業

ベクトルシャイム氏は1995年に退社し、Granite Systemsを設立し、高速ネットワークスイッチの開発に従事。1996年、同社をCisco Systemsに売却した後、今度は2001年に高性能サーバー開発のKealiを共同設立。2004年にSun Microsystemsに売却した。さらに2005年、ネットワークスイッチ会社Arista Networksを設立し、現在は同社のChief Development Officerを務めている。

ベクトルシャイム氏はスタートアップ企業への投資にも積極的だ。1998年、Googleに対して10万ドルのシードマネー(起業の元手となる資金)を投資したのは同氏である。1999年、後述のジョイ氏とベンチャーキャピタルHighBAR Venturesを共同設立。これまで、多数のスタートアップ企業に投資している。

ビル・ジョイ氏は2003年にSunを去り、大手ベンチャーキャピタルKleiner Perkins Caufield & Byersのパートナーに就任。現在、クリーンエネルギー分野への投資を担当している。ビノッド・コースラ氏は2004年にKhosla Venturesを設立して以来、クリーンテックやIT分野への投資に専念している。

SunがOracleに買収された後、スコット・マクネリ氏は2010年に会長を辞して、DWHアプライアンスのGreen-plum(同年、EMCが買収)のアドバイザーに就任。2011年からは、テクノロジー調査会社であるCrucial Pointのアドバイザーも務めている。その一方で、モバイル・ソーシャルアプリケーション開発コミュニティWayInを主宰。2011年に、640万ドルの資金を調達した。

Netscape CommunicationsNetscape Communications
1994年、ジム・クラーク氏と
マーク・アンドリーセン氏が創業

クラーク氏は1995年に社長を退任。個人向け金融資産サービス会社のmyCFO、医療サービス会社Healtheronを矢継ぎ早に設立した。その後、my CFOをHarris Bankへ売却。HealthronはWebMDに合併された。現在、スタンフォード大学をはじめとする研究機関に寄付をしたり、若い技術者の指導に当たったりしている。なお、同氏は1982年にSilicon Graphicsを創立し、CG技術の最先端を担う企業に成長させた人物である。

アンドリーセン氏は1999年に、元Netscape副社長であるベン・ホロウィッツ氏とIT資源管理のソフトウェア会社Opswareを共同設立。2007年、HPに売却した。このほか、2004年にSNS事業者のNingを創立し、2011年にGlam Mediaに売却した。現在、開発環境をSaaS型で提供するCollabNetなど数社の役員を務めている。

アンドリーセン氏はベンチャー投資にも熱心だ。エンジェル投資家として、TwitterやソーシャルニュースサイトのDiggに資金を供給。2009年には、ホロウィッツ氏とともにベンチャーキャピタルであるAndreesen Horowitzを設立した。

eBay eBay
1995年、ピエール・オミディヤ氏が創業

オミディヤ氏は1998年に社長の座から退き、2004年にオミディヤ・ネットワークを設立。2億9000万ドルという巨額の資金を運用し、営利・非営利を問わず社会変革に貢献する事業に対して投資している。これまで投資した企業は31社に上る。

このほか、電子決済サービスのPayPalや音楽配信サービスのNapster、動画共有サービスYouTubeの創業者たちも、新たな挑戦を精力的に続けている(表)。なかでも、PayPalの創業者の1人であるイーロン・ムスク氏の活躍はめざましい。同氏は2002年、Space Exploration Technologies を設立。NASAのスペースシャトルに代わる商用ロケットSpaceXの開発に賭けている。その一方で、2003年に電気自動車メーカーTesla Motorsを共同設立し, 2008年には社長に就任。2010年にスポーツタイプのRooadsterを出荷した。同社の電池技術の特許はメルセデスベンツやトヨタ自動車にも提供されている。ムスク氏は社会貢献にも積極的だ。Musk Foundationを設立。科学教育、小児医療、クリーンエネルギー分野への投資を行っている。

このように、シリコンバレーの成功者たちに、悠々自適の楽隠居を決め込む人は見当たらない。再び起業する、後進育成に投資する、あるいは企業の社会貢献に関するアドバイザー役を務める…。それまでの経験を生かして、さらなる飛躍を目指している。

一度の成功に満足せず、さらにその先の新しい何かを追い求め続ける。それがシリコンバレー流だ。年齢制限はない。ジム・クラーク氏は今では67歳、スコット・マクネリ氏は58歳である。

表 シリコンバレー発の著名ベンチャー企業とその創業者の現在
表 シリコンバレー発の著名ベンチャー企業とその創業者の現在
山谷 正己
米国Just Skill, Inc.社長/名桜大学客員教授/IT Leaders米国特派員
バックナンバー
シリコンバレー最前線一覧へ
関連キーワード

シリコンバレー / Apple / Google / Facebook / Meta / ベンチャー / VC / Sun Microsystems / Netscape Communications / eBay / SpaceX

関連記事

トピックス

[Sponsored]

先達にリタイヤの文字はない、成功しても尽きぬベンチャー精神シリコンバレーのベンチャー精神は衰えることを知らない。かつて一世を風靡した起業家たちは、今もなお新たなビジネスの模索を続けている。後進の育成や社会貢献にも余念がない。

PAGE TOP