オープンソース・ソフトウェア(以下OSS)という呼び名で分類されるソフトウェアの領域があることは、本誌読者ならご存じだろう。ソースコード(プログラム)が公開され、無償で再利用したり改変できるソフトのことだ。
ではOSSの定義はご存じだろうか。ソースコード(プログラム)が公開されていること、再頒布が自由であること、特定の技術に依存しない中立性があることなど、一般にはOSSの推進組織が定義する10の項目を満足しなければならない。OSSと似た概念にフリーソフトウェアやフリーウェアがある。仕分けして理解するのが少しややこしい。
1990年代の後半から広がり始めたOSSは、15年を経て今やなくてはならない存在になった。例えば商用ソフトの最大手、米マイクロソフトは昨年、OSSを開発・推進する子会社としてマイクロソフト・オープン・テクノロジーズを設立した。数年前まで同社はOSSを脅威あるいは敵と見なしていた。それがOSSの技術成果を自社技術に取り込みつつ、コミュニティに開放する方向に政策転換したのである。これはOSSが、場合によっては商用ソフトを上回るレベルになってきたことを示している。
クラウドのような先端領域では、OSSが完全に主流である。しかしこれらの動向はベンダー企業やOSSを使ってサービスを提供する企業を中心とするものであって、ユーザー企業でのOSSの活用は思ったほど進んでいない。そこには大きな壁があるからだ。
OSSの乗り越えられない壁
ユーザー企業がOSSを自在に活用できたならば、コストを抑えながら、しかも短期間に最新の技術を使ったシステムを構築できる。OSSを導入しやすいように商用パッケージにしたものもあり、それらは積極的に導入されている。
例えばコンピュータの基本ソフト(OS)に、OSSのLinuxを使うことは普通のことになったし、アプリケーションソフトはJavaやPHPやRubyなどのOSSで作られている。データベースソフトもOSSのMySQLやPostgreSQLが使われ、大量のデータを一気に分散処理するHadoopもビックデータの潮流のなかで使われるようになった。
しかしこのようなOSS技術の活用はほんの一部に過ぎない。世の中にはたくさんのOSSが流通しており、今ではセキュリティも仮想化もBI(ビジネス・インテリジェンス)もインフラ周りの運用も、OSSを活用して構築できる。だがユーザー企業が主体的に取り組めない壁があるのだ。
その一つが、OSSには動作や利用によって生ずる損害については無保証であること、言い換えれば自己責任を求められることである。外部ベンダーのサポートが得られる商用パッケージ化されたOSSは導入できても、専門部署としてのシステム部門が責任を問われかねない多くのOSSは、活用されていない。
もう一つの壁は主体的にOSSを扱うには高度なコンピュータ知識が必要であり、OSS開発仲間で作るコミュニティに参加して常に情報を入手したり提供したりできる知識とスキルが求められることである。要するにまだまだ敷居が高いのだ。
OSS技術の導入と期待
企業のコンピュータ利用は大手メーカーが提供する大型コンピュータから始まり、1990年代のダウンサイジングやオープン化でのマルチベンダーを経てインターネットをベースとする環境を迎え、OSS時代へと移行しつつある。技術が急速に進化するその過程でユーザーは主体性を失い、”丸投げ”という言葉に象徴される過度のベンダー依存が起こった。結果、ビジネス要求に適合したシステム作りが出来なかったりコスト抑制が難しくなったり、あるいはシステム部門の役割や情報子会社の役割が見えなくなってきている。
この問題に対し一部の企業では社内でやることと外部に委ねることを切り分け、内製に取り組むところも出てきた。そのような主体性を取り戻しつつある企業では、OSSの活用もターゲットにあると思われる。主体性を発揮するには技術力が必須である。OSSに取り組むことで、進化するコンピュータ科学もプログラミングも、組み合わせや応用技術も学べることだろう。ベンダーとの技術の非対称性が改善されればバートナーシップも改善され、なによりシステム部門のステイタスとモチベーションが高まる期待が持てるのだ。
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