[架け橋 by CIO Lounge]

デジタル時代における社内IT部門の役割を再考する

CIO Lounge 河村 潔氏

2023年1月25日(水)CIO Lounge

日本を代表する百戦錬磨のCIO/ITリーダー達が、一線を退いてもなお経営とITのあるべき姿に思いを馳せ、現役の経営陣や情報システム部門の悩み事を聞き、ディスカッションし、アドバイスを贈る──「CIO Lounge」はそんな腕利きの諸氏が集まるコミュニティである。本連載では、「企業の経営者とCIO/情報システム部門の架け橋」、そして「ユーザー企業とベンダー企業の架け橋」となる知見・助言をリレーコラム形式でお届けする。今回は、CIO Lounge正会員メンバーの河村潔氏からのメッセージである。

 皆さんこんにちは。私は1989年に大学卒業後、パナソニックとオムロンで33年間、一貫して社内ITに携わりました。パナソニックでは大手量販店とのEDI、販売・生産・会計・物流領域の業務改革と基幹系アプリケーション、コミュニケーション基盤などのインフラ領域の企画・開発・運用に従事。2005年からは4年半、中国・上海に駐在し、現地法人でのITマネジメントや戦略立案、人材育成などを担当しました。

 振り返ると、その間、常に意識していたのが、入社間もない頃に上司や諸先輩方から教えられた考え方です。「システム化はコンピュータを使った業務の機械化ではない。業務プロセスを変革して初めてシステム化になる」というものです。システム(化、部門)という言葉は時代と共にIT(化、部門)に変わり、情報システム部門もIT部門と呼ばれるようになりました。私は「Information Technology部門」よりも、「情けに報いる部門」というニュアンスを持つ「情報部門」が好きですが、以下では一般的なIT部門と表記します。

 システム化がIT化と言われるようになり、上記の教えは「IT化は、単にITを活用したりITそのものを最新化したりすることではなく、業務プロセスを変革し、それをITでロックして他へ展開をするInnovation TransferがIT革新である」と言われるようになりました。今日、DX=デジタルトランスフォーメーションという言葉が一般化し、「DXは、IT化・デジタル化=デジタイゼーションだけではなく、事業や業務のトランスフォーメーションを合わせて行うことでDXになる」と言われています。

DXを導く3つのキーワード

 ここには3つの共通したキーワードがあります。「テクノロジー」と「業務改革」と「社会への貢献」です。テクノロジー(Seeds)を活用し、自社の業務改革を通じて、社会課題を解決(Needs)することです。このうち社会課題の解決に唐突感があるかもしれません。しかし業務改革は事業を通じて間接的に社会課題の解決に貢献しますし、世の中のIT化・デジタル化の進展にも直接貢献します。テクノロジーの活用は自社の変革を通じて社会に影響を及ぼす──このことを忘れてはいけないと思います。

 そうしたIT部門は今、次なる変革を求められています。給与計算や伝票処理、決算業務などの社内業務の効率化からスタートしたIT部門は、最近までいかにうまくITを構築・運用するかがミッションでした。IT化の効果を最大化するために業務要件やプロセス変革にも領域を拡大した現在は、そうではありません。部門横断のプロジェクト推進力や蓄積されたデータの活用力、デジタル技術を活用した新規事業の創造などを期待されています。いかにしてこれに応えていけるでしょうか。先の3つのキーワードに当てはめてみたいと思います。

 「テクノロジー」については進歩が速く、領域も広いのですべてにキャッチアップするのは決して容易ではありません。しかし、これはIT部門の中核能力でもあります。まず自信の持てる専門領域の能力を獲得し、1つでも多く増やす策を講じることで相乗効果を生み出すなどして、テクノロジーに関する能力を高めなければなりません。個人だけではなく、部門としての能力を蓄積し、活用力を高めることが必要です。

 「業務改革」については、自社の変革のために、事業という“縦糸”と、経理や人事などの間接部門の“横糸”、それぞれを繋げるよう企業横断的な視野と人脈を持つことです。それにとどまらず、他社との協業を通じて自社の提供能力を変革させるなど、そのためにプロマネ力やコミュニケーション力、課題形成力は必要な能力であると思います。

 「社会貢献」については、企業を取り巻く多くのステークホルダーの期待に応えていかねばなりません。HowではなくWhyを忘れずに取り組むことが重要です。我々は何のために存在するのか?常に目的志向で、何のために行うのか? ということです。

 くしくも「企業は社会の公器である」と、パナソニック創業者の松下幸之助氏も、オムロン創業者の立石一真氏もおっしゃっています。1つ1つの取り組みやプロジェクトにおいても、その目的達成や成果創出にこだわり、最後までやり続けること。途中の失敗や挫折で諦めず、やり続けることで失敗は失敗ではなく学びに変わりますので、「私、失敗しないので」という人になれると思います。

 これら3つのキーワードにある根幹は「人」です。1人では部門や組織にはなりませんし、DXもシステム化もできません。人の能力の可能性を信じ、人と人の繋がりがあってこそ実現できるものと思います。個人の能力については、「学歴よりも学習歴」で、ベテランとなっても若い人の成長曲線に負けないようにしたいものです。

 武田信玄の「人は石垣、人は城」という言葉は有名ですが、続きがあります。「人は石垣、人は城、人は堀、情けは味方、仇は敵なり」、情けは味方です。情けに報いる部門として、社内外を縦横斜め多次元に繋ぐ、経営とITを繋ぎ、社内ITとベンダーを繋ぐ、架け橋となっていきたいものです。


●筆者プロフィール

河村 潔(かわむら じゅん)
1989年に松下電器産業(現、パナソニックHD)に入社。以降、本社IT部門に所属。2005年より中国上海に4年半駐在し、社内IT分社の副総経理として従事。2015年、オムロンに転じ、ITプラットフォーム革新センタのセンタ長としてIT戦略・マネジメントを担当。両社における33年間、一貫して製造業におけるITによる経営革新を推進し、SCMなど基幹アプリケーションやコミュニケーション基盤などのインフラ領域を担当してきた。趣味はお城巡りと写真撮影。

※当コラムはCIO LoungeのWebサイトにも同時に掲載しています。


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